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「私が負けたらスターダムが否定される」中野たむの覚悟…現役“赤いベルト王者”はなぜレジェンド・神取忍の顔面を張ったのか?
posted2023/09/10 11:00
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Essei Hara
「今日は私たちのホームじゃないんだな」
スターダム最高峰の“赤いベルト”ワールド・オブ・スターダム王座を保持する中野たむはそう感じた。8月19日の大田区総合体育館大会。スターダムの興行であり、チームを組んだのはなつぽい&安納サオリのタッグ王者組。たむ自身は団体の頂点、“赤いベルト”ことワールド・オブ・スターダムのチャンピオンである。
つまりチャンピオン3人が並んだのだが、それでも皮膚感覚はアウェイなのだった。この日の興行にはダンプ松本、ジャガー横田など“レジェンド”が多数出場。今をときめくスターダムの選手たちと“女子プロレスの歴史”の邂逅が大きなテーマになっていた。
たむ、なつぽい、安納が対戦したのは神取忍&井上貴子のレジェンドコンビにスターダムの実力者・葉月が加わった異色チーム。神取と貴子が入場すると、たむは観客の視線と意識が対角線上のコーナーに向かうのを感じた。
中野たむの本音「正直、怖さを感じました」
神取は1986年デビュー、58歳。貴子は88年デビューで53歳。現在の試合数は少なく、最前線でバリバリ闘っているというわけではない。それでも周りの目を奪うのがスターでありレジェンドだ。
「やっぱりカッコいいな、神取」
「貴子、今でも華あるわ」
パッと見てそんな気持ちになる。“思い出補正”も込みとはいえ、大半の観客がそうだったのだろう。新規ファンが増え続けているスターダムだが、当然ながら女子プロレスの“古参”ファンも多い。
「普段なら私たちが会場で一番人気のはずなんですけど」
苦笑するたむ。いつもとは違う雰囲気の中、彼女は相手チーム、特に神取に対して「正直、怖さを感じました」と言う。貴子とは過去に一度だけ対戦しているが、神取とは完全な初遭遇だった。
五輪種目化する前の時代、柔道で全日本選手権を制した神取(その意味でもレジェンドだ)。プロレス入りするとすぐにトップ選手に。団体の違う長与千種のライバルとして対戦が熱望され、90年代には北斗晶との壮絶な一騎打ちでプロレス界を席巻した。いわば女子プロレス史上最高最大の“強さの象徴”だ。後には参議院議員を務め、一般的知名度も高い。