濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「私が負けたらスターダムが否定される」中野たむの覚悟…現役“赤いベルト王者”はなぜレジェンド・神取忍の顔面を張ったのか?
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byEssei Hara
posted2023/09/10 11:00
リングでレジェンド神取忍との初邂逅を果たした中野たむ。現スターダム王者はなぜ“負けられなかった”か
遠慮も忖度もナシ、何度も神取の顔面を…
ビッグマッチの前になると、食事の時にも「これを食べるのも最後かな」と思うそうだ。それだけの覚悟をもって“赤のチャンピオン”として存在している。だから相手がレジェンドであっても、簡単に屈したくはない。神取も貴子も対戦相手であって、つまりそれは敵対関係ということであり、自分の試合を“お祭りカード”にするわけにはいかない。だから記者会見でも試合でもケンカを売りにいった。
「これは女子プロレスの歴史と、今の女子プロレスを作っているスターダムの闘いなので。見えないものとの闘いでもある。だから怖さを感じたのかもしれない。私が神取忍に怯んだら、スターダムが女子プロレスの歴史に負けたことになってしまうんです。スターダムが旗揚げしてからの十数年が否定される。そういう意識がありました。“やっぱりレジェンドには敵わないね。あの頃(80-90年代)の女子プロレスが最高だね”と言われてはいけない、絶対に」
印象的だったのは張り手だ。何度も神取の顔面を叩く。たむたちの闘いぶりには遠慮も忖度もなく、また神取と貴子も真っ向から受ける。こうなるとキャリアも格もなく、試合は自然とヒートアップしていった。“お祭り”の要素はどこにもなかった。
たむは神取とのタイトルマッチを要求
試合は、なつぽいが葉月から3カウントを奪った。レジェンドは勝敗に絡まず。たむは神取にベルトを突きつけて言った。
「これで終わりじゃねえぞ。次はシングルだ」
神取忍を挑戦者にタイトルマッチをしようというのだ。それだけの強さを、神取から感じた。
「強さだけじゃなく怖さも、ですね。だって神取忍だし!(苦笑)」
なにしろ神取は天龍源一郎ともシングルマッチをした選手だ。顔面をボコボコにされて、むしろ株を上げた。ジャパン女子プロレス時代には、先輩レスラーのジャッキー佐藤を一方的に叩きのめした。狙いはジャッキーの「心を折る」こと。現在、マット界以外でもしばしば使われる「心を折る」、「心が折れる」という表現を最初に使ったのは神取なのだ。