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馬との関係は“家族同然”…「負担を考えて丁寧にケアを」相馬野馬追に見た“人と馬の共生のかたち”「相双地方にとって野馬追は特別」
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byAkihiro Shimada
posted2023/08/26 17:02
2023年の相馬野馬追、本祭りの締めくくり「帰り馬」で騎馬武者を背に引き揚げる馬たち。相双地方における“人と馬の共生のかたち”に迫った
伝統のなかに見た“共生のかたち”
今村さん父子が乗る2頭を手配したのは、小高郷副軍師の本田博信さんだった。
本田さんは小学校4年生のときに初陣を果たした。2020年に他界した父・信夫さんは、五郷騎馬会の会長をつとめた重鎮だった。震災の年に行われた野馬追で陣頭指揮を取っていたのが信夫さんだったのである。
55歳の本田さんは、かつて専修大学の馬術部に所属し、社会人になってからも国体に出場するなどしていた。また、震災前は地元に乗馬少年団を創設して指導にあたっていた。そうした関係から、馬術の競技団体や、JRA、厩舎関係者、牧場関係者などに顔が利き、譲り受けた元競走馬などを、自宅の敷地内の厩舎で5頭ほど、鹿島区に借りている厩舎でもさらに5頭ほど繋養している。
今年は本田さんと、長男で組頭の賢一郎さん、次男で御使番の康賢さん、長女で御使番の賢美さんの家族4人で出陣した。4人とも、本田家で繋養する馬に騎乗した。
本田さんが乗ったイーストフォンテンだけは初陣だったが、さすがに馬術のエキスパートだけあって、難なく乗りこなしていた。
本田さんや前出の佐藤さんのように、野馬追に出るために馬を飼育している人はほかにもいる。そのくらい、ここ相双地方にとって、野馬追というのは特別なのだ。
本田さんにとっても、佐藤さんにとっても、馬は家族同然だ。今村さんのように、この時期だけ預かる人たちも、共に晴れ舞台に立つ相棒として、馬たちをとても丁寧に扱う。
甲冑を身につけると、体重にさらに10kg以上プラスされるので、馬の負担を考え、行列が終わって祭場地に入ると下馬してクールダウンさせる。また、直射日光がキツいと判断したら、すぐに厩舎へと移動させてしまうこともある。
そうするのは、前編でも述べたように、伝統をつなぐためである。
私たちから見ると、彼ら自身が伝統の一部である。相馬野馬追の騎馬武者たちは、自分たちを生かすために、馬たちを大切にしている、と言ってもいい。
来年も、その先も、騎馬武者たちの手によって、千余年の伝統はつながれていく。
<前編からつづく>