酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
「栄冠は君に輝く」古関裕而が野球殿堂入りするまで…“慶応を生観戦”88歳名誉教授の記憶「“軍歌王”と言われたかもしれませんが」
posted2023/08/26 17:00
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
Naoya Sanuki
猛暑が続いた夏の甲子園、今年も決勝戦のグラウンドに「♪雲は湧き 光あふれて」の歌声が響きわたった。全国高校野球選手権大会の大会歌「栄冠は君に輝く」だ。この歌を作曲したのは、作曲家・古関裕而(1909-1989、作詞は加賀大介)である。
「紺碧の空」「六甲おろし」…名応援歌を作った古関
古関は戦前、「露営の歌」や「若鷲の歌」などの軍歌で知られたが、戦後は歌謡曲、そして野球にまつわる歌をたくさん作曲している。
早稲田大学第一応援歌「紺碧の空」、慶応義塾大学応援歌「我ぞ覇者」など大学の応援歌、「栄冠は君に輝く」、阪神タイガースの球団歌「大阪(阪神)タイガースの歌(六甲おろし)」、読売ジャイアンツの球団歌「巨人軍の歌(闘魂こめて)」。
神宮球場でも、甲子園でも、東京ドームでも古関裕而が作曲した晴れやかで、勇壮なメロディが今も響き渡っている。
古関裕而は、今年、野球殿堂顕彰者(特別表彰部門)に選出された。没後34年、7月19日、バンテリンドームのオールスター第1戦前に行われた殿堂入り表彰式では、ランディ・バース、アレックス・ラミレスとともに、古関裕而の子息の正裕氏が出席。「父は全く運動がだめだったので、殿堂入りを驚いていると思います。ただ、スポーツに情熱をもって努力している気持ちと、父の音楽にかける情熱は通じるところがあります。これからも父の応援歌を皆さんに歌っていただけることを願っています」と語った。
野球殿堂には、日本野球の発展に寄与した野球人が顕彰されているが、その多くは野球選手、指導者、経営者であり、野球文化の発展に貢献した文化人の殿堂入りは、極めてまれだ。
古関さんが野球殿堂入りなんて考えたことも…
古関裕而はなぜ野球殿堂入りすることができたか?
その経緯を7月30日、慶応義塾大学名誉教授の池井優氏が、野球文化學會総会で語った。
〈2018年、私は野球文化學會の機関紙『ベースボーロジー』の巻頭に『古関裕而と応援歌』と題する記事を寄稿し、『古関裕而も応援歌により野球に貢献した功績により野球の殿堂入りにふさわしい人物である』と書きました。
すると、これを古関の故郷である福島在住の私のゼミの教え子が読んで、たまたまそれを福島民報の社長をしているいとこに話した。
『古関さんが野球殿堂入りなんて考えたこともなかったよ、そんなことが可能なのかね』ということになって、福島民報の記者が私のところにやってきた。
『可能ですよ』と私は答えました。『とにかく高校野球から早慶の応援歌、プロ野球まで、野球の歌をたくさん作っていますから』と。