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「高校野球は“やらされ感”が強い」慶応高監督が危惧する、野球離れの深刻化「魅力的に見えづらい」「だからこそ慶応は“野球を楽しむ”」
posted2023/08/15 06:02
text by
森林貴彦Takahiko Moribayashi
photograph by
Nanae Suzuki
「髪型自由」「長時間練習なし」の方針を掲げる、ユニークな森林の野球観を著書『Thinking Baseball ――慶應義塾高校が目指す"野球を通じて引き出す価値"』(東洋館出版社、2020年10月発行)から抜粋して紹介する(全3回の第3回/初回は#1、前回は#2へ)
ケガ…選手側が言いやすい環境を作る
高校野球にかかわらず、高校の部活動全般に言えることですが、ケガをした選手が無理に練習をしてしまい、必要以上に悪化させてしまうケースがよく見られます。この大きな原因の一つが、指導者と選手のコミュニケーション不全。つまりは、選手が指導者に病状を素直に報告できないでいるのです。もちろん、40代や50代、あるいはそれ以上の年齢の指導者と、15~18歳の選手が親友のように何でも言い合える関係になることはほぼ不可能で、完璧なコミュニケーションを取り合えるとは正直、思っていません。
しかし少なくとも、必要最低限のことは報告、相談できる関係性や、選手側が言いやすい環境を作ることはとても大切です。そのためには、指導者側と選手が上下関係にならないこと。そうなってしまうと、そこに現れるのは一方通行の伝達や命令で、選手は服従、従属するだけとなり、それを正常なコミュニケーションと呼ぶことはできません。旧来の高校野球の組織では、こうした一方的な伝達・命令が当たり前でしたが、これを双方向型に変えていくことが理想です。指導者側から伝える場合もあれば、選手から言うケースもある。よりフラットな関係性を慶應義塾高校野球部では目指しています。
「ケガするなんて使えねえなあ」
選手から「最近、肩に痛みや違和感があるのですが、早退して治療に行ってもいいですか?」という相談が来たときに、指導者も「それはいつから? 分かった。行ってきなさい」と言える。いわゆる一般に報・連・相と呼ばれる意思疎通が、当たり前にできるようになっていなければいけません。
このような関係性を構築するために必要なことは、選手の話を聞く姿勢をもつこと。決して「ケガするなんて使えねえなあ」などと言ってはいけません。それでは、選手は「言っても無駄」だと感じてしまい、ますます意思疎通が難しくなるだけです。またケガの症状、経過報告については、完治して復帰するまでのプロセスを共有する必要があります。
「言わなければよかった」と思わせないこと
指導者が病院や治療院を責任を持って紹介し、どのような診断がくだされ、どのような治療が行われたかをきちんと報告させる。それこそが指導者としての務めです。