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「高校野球は“やらされ感”が強い」慶応高監督が危惧する、野球離れの深刻化「魅力的に見えづらい」「だからこそ慶応は“野球を楽しむ”」
text by
森林貴彦Takahiko Moribayashi
photograph byNanae Suzuki
posted2023/08/15 06:02
「他の競技に比べ、高校野球は“やらされ感”が強い」と指摘する慶応・森林貴彦監督。それが「子供の野球離れ」につながっているのではないか、と説く
すると選手は、「正直に言ってよかった」「いい先生を紹介してもらえたから早く回復できた」と感じて、指導者に対する信頼感を高めます。逆に言えば、選手に「言わなければよかった」と思わせないことが大事。一事が万事で、たとえ小さなことであっても、「言わなければよかった」という気持ちにさせてしまうと、選手は指導者に対してますます心を閉ざします。
さらには、治療院や病院とも信頼関係を作っておくことも大切です。私自身、ドクターや治療院の先生とは、経過や復帰の目処について気兼ねなく話せるような関係を構築しています。その結果、安心して治療を任せられますし、選手にも復帰の目安を伝えられる分、モチベーションを高くキープさせてあげられる。選手からすれば、出口の見えないトンネルが一番つらいはずですから、復帰、完治までの道筋を示してあげるのも、指導者の責任ではないかと思います。
指導者として本当に罪なことは…
高校3年間で野球を一生懸命やらせてあげることも、指導者の一つの責任ではありますが、その先で野球を続けていく選手もいます。大学や社会人、プロはもちろん、大人になって草野球をやりたくなったときに肩や肘が上がらない、腰が痛くて日常生活もままならないというような状態にしてしまっては、指導者として大変に罪なことです。だからこそ、普段からよくコミュニケーションを取らなければいけません。
選手には、「痛みや違和感があれば、隠さないで早めに相談しなさい」と言ってあります。相談なく、そのまま野球を続けてしまったせいで、1週間の休養で回復したはずのケガが1カ月、3カ月と休まなければいけない状況になるかもしれません。それは、その選手にとってはもちろん、チームにとっても大きなダメージとなりますから、「できる限り早めに相談しなさい」と言い続ける必要があるのです。
他も慶應のようになるべき、とはまったく考えていない
慶應義塾高校野球部では、自ら考える選手の育成、自ら考えるチーム作りをモットーに、日々の活動に取り組んでいます。ここまで何度か言及してきたように、旧来の高校野球の在り方とは一線を画した方法かもしれません。