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「国民が求めています。もっとやりましょう」カンボジアサッカーを変えた本田圭佑に足りなかったのは契約条件? それとも情熱?
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byJIJI PRESS
posted2023/08/08 17:02
2018年8月12日、カンボジア代表のGMに就任し、同国サッカー協会のサオ・ソカ会長と会見に臨んだ本田。退任時の会見はなかった
——メディアに関してはどう思われていますか。本田が会見に出ないのはライセンスを持っていないからですが、彼のコメント自体が現地で伝わっていない。それに対してカンボジアのメディアが何か言っているわけでもない。
斎藤 ありがとう、ケイスケっていう(笑)。
——それだけが残って、本田の国民に対する言葉が残ったかと言えば、直接語りかける言葉は何もなかった。
斎藤 メディアもそうだしファンの人たちもみんな拍手でサンキュー・ケイスケになっていた。悔しくてしょうがない気持ちではなかったし、ブーイングのひとつもなかった。
誰もそこまで興味がない。メディアにしても、批判をすることが容易ではない雰囲気なので、表立って批判が現れることはあまりないです。仕方がないと最近は思っていますが、負けた直後は何でもっと批判しないんだ、もっと悔しがれと思っていました。でもメディアが育つには、時間がかかるのでしょうね。
フン・セン首相の擁護
——批判をすることでメディアが不利益を被ることはあるのですか?
斎藤 フィリピン戦に本田さんはピンクのシャツを着て草履を履いてきた。それが面白いとジャーナリストなのかユーチューバーなのか、「あの服装は」みたいな揶揄したコメントを書いたんです。それに対してフン・セン首相が「本田をバカにするのは、選手たちやカンボジア人をバカにするようなものだ」と言った。それをメディアが大々的に取り上げて、それから本田さんの服装を揶揄する人間は誰もいなくなりました。
——すべてがこれからですね。
斎藤 当事者意識だと思います。自分に何ができたんだろうかと、今もずっと考えています。
6月15日、カンボジアは2年ぶりに復帰したフェリックス新監督の緒戦として、バングラデシュをホームに迎えて国際親善試合を行なった。結果は0対1の敗戦。しかしシュート数は18対2と、試合内容では圧倒的に攻め立てた。手応えを感じながらの敗北であった。
新生カンボジアに係わる日本人それぞれが、シーゲームスの反省を踏まえたうえで力を集結していく。本田のレガシーをポジティブに生かせるかどうか。それは今後のカンボジアの戦いが証明するであろう。