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『ウマ娘』公式SNSも注意喚起…なぜ牧場見学で“マナー違反”が繰り返されるのか?「この30年で最悪」「人馬ともに大怪我をする可能性も」
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/08/02 17:00
タニノギムレットやローズキングダムなどが余生を過ごすヴェルサイユリゾートファーム。同牧場もSNSやホームページで注意喚起を行っている
大きな声を出したり、急に動いたり、先に記したようにスピードを出した車で近づいたりすると驚いた馬が暴れて、馬が骨折などの怪我をすることがある。最悪の場合、予後不良で死に至る。それが種付料の高額な種牡馬だった場合、治療や補償に要する費用は数百万円どころか数千万円になることもあり得る。
馬産のプロも恐れる「衛生面の問題」とは
馬というのは、基本的に臆病な動物である。怖いから(あるいは、脳に前頭前野がないので反射的に)暴れたり、攻撃したりする。
もうひとつ重要なのは衛生面の問題だ。例えば、これは繁殖牝馬に関することだが、馬鼻肺炎(うまびはいえん=ERV)という流産を引き起こす伝染病がある。ものすごくうつりやすく、どれか1頭がかかると、その牧場だけではなく、ほかの牧場にまでひろがる恐れがあるので、コロナの行動制限同様、人馬の動きを制限しなければならない。
それについて、2020年のJBCスプリントを制したサブノジュニアなどを生産した静内・藤沢牧場の藤沢亮輔さんはこう説明する。
「寒い時期に活性化するウイルスなので、11月から5月くらいまでは特に気をつけています。うちの場合、繁殖牝馬のいる本場(ほんじょう)と、1歳馬や離乳した当歳馬のいる分場(ぶんじょう)を行き来するとき、スタッフはその都度、靴も、着るものもすべて替えています。その時期は、オーナーさんや調教師さんにも、出入りをご遠慮いただくこともあるくらい神経を使っています」
数百万円の種付料を払って妊娠した馬たちが、ERVで軒並み流産すれば牧場にとって死活問題になる。
今とは異なる寒い時期の話ではあるが、いつも馬と一緒にいるプロでさえ、衛生面にそのくらい気をつけているということを理解してほしい。
なお、藤沢牧場の放牧地にも知らないグループが入り込んでいることがあり、外国人観光客の場合もあるという。