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「もう騎手を続けられないかなって…」左目を失った天才・宮川実はなぜ、再び騎乗することを決めたのか…高知競馬の“ある騎手”を訪ねて

posted2023/08/11 17:00

 
「もう騎手を続けられないかなって…」左目を失った天才・宮川実はなぜ、再び騎乗することを決めたのか…高知競馬の“ある騎手”を訪ねて<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

2022年高知競馬のリーディングに輝いた宮川実

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井上オークス

井上オークスOaks Inoue

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Takuya Sugiyama

 2010年5月、前年の落馬事故で左目を失った騎手が微かな希望を掴んで立ち上がり、見事に復活を遂げた。気づけば、騎乗術も取り組み方も以前とは変わっていた。昨年ついに高知のリーディングに輝いた隻眼の騎手・宮川実の挑戦を追う。
 現在発売中のNumber1078号掲載の[ナンバーノンフィクション]宮川実「高知競馬 隻眼のリーディング」より内容を一部抜粋してお届けします。【記事全文は「NumberPREMIER」にてお読みいただけます】

 宮川実はデビュー前から、10年にひとりの逸材と言われていた。

 1999年、17歳で迎えたデビュー戦は「初騎乗初勝利」。それから3年足らずで100勝に到達し、その後も順調に勝ち星を重ねた。高知競馬のリーディングジョッキー(年間最多勝騎手)は、5歳年上の赤岡修次が独走状態。その赤岡に次ぐ位置まで上がって来た宮川は、いずれリーディングを獲るだろうと言われていた。宮川の成長は、経営難にあえぐ高知競馬の希望でもあった。

 海が好きで、サーフィンが得意。同業者から羨ましがられるほど優れたバランス感覚は、馬乗りのみならず波乗りでも発揮された。よく働き、よく遊んだ。

 27歳の若者は、充実した日々を送っていた。

ゴーグルやヘルメットに肉片がついている

 2009年5月2日、ゴールデンウィーク開催の初日。高知競馬の第1レース。4コーナー、宮川の騎乗馬は「さあ先頭に立とうか」という局面で、脚を故障しガクンとよろめいた。宮川はダートコースに投げ出される。一瞬の出来事。勝負所でスピードを上げた後続馬の蹄は、宮川を避けることができなかった。

 宮川を乗せた車は、いったん検量所の前に停止した。心配して駆けつける騎手仲間。のちに妻となる別府真衣は、血まみれで横たわる先輩を見て息をのんだ。外されたゴーグルやヘルメットに肉片がついている。真衣は「どうか命だけは助かってほしい」と願うしかなかった。

 そんな状態でありながらも意識はあり、喋ることもできた。宮川は青ざめる仲間たちに向かって、「大丈夫、大丈夫。次のレースも乗るき」と言った。

「そう言っていたみたいなんですけど、記憶がないんですよね。こけた馬に装鞍したことも、当日の朝の記憶もなくて」

 顔面の複雑骨折。宮川は左目の視力を失った。誰もが「騎手を続けられないだろう」と思っていた。

「『もう騎手を続けられないのかな』って」

 ゴールデンウィーク中には名古屋競馬場や園田競馬場のビッグレースに遠征する予定だった。どこか自分本位に「俺が馬を走らせるぞ、俺が一番上手く乗るぞ」と思ってきた宮川が、その殻を破って飛躍しようとしているときに起きた事故だった。

「すごく楽しみな予定がたくさんあって、その矢先でした。自分でもすぐには受け入れられないというか、信じられなかったです。『もう騎手を続けられないのかな』って、そんなことをずっと考えていました」

 宮川が初めて出会った馬は、中学生のときに近所で飼われていたポニー。そのポニーの飼い主は、高知競馬の打越初男調教師だった。馬の愛らしさに夢中になった宮川は、やがて乗り役のかっこよさに惹かれて、騎手を志した。中学2年生で打越厩舎に通い始めてそのまま騎手になった宮川にとって、師匠の“初男先生”とその妻の繁子は、親のような存在だった。

 病室でふさぎこむ宮川を、“競馬場のお袋”は毎日のように見舞った。そしてあるとき、かつて高知競馬場に隻眼の騎手がいたことを教えてくれた。昭和30年代に活躍した田代幾治という騎手で、宮川と同じく左目の視力がなかったのだという。

「それを聞いて、『片目でレースに乗れるんだ』と思いました」

 一筋の光が差し込んだ。

【続きを読む】雑誌ナンバーの記事がすべて読めるサブスク「NumberPREMIER」内の<ノンフィクション>宮川実、隻眼のリーディング【高知競馬と騎手再生の14年】​で、こちらの記事の全文をお読みいただけます。

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