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『ウマ娘』公式SNSも注意喚起…なぜ牧場見学で“マナー違反”が繰り返されるのか?「この30年で最悪」「人馬ともに大怪我をする可能性も」
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/08/02 17:00
タニノギムレットやローズキングダムなどが余生を過ごすヴェルサイユリゾートファーム。同牧場もSNSやホームページで注意喚起を行っている
このようなマナー違反やルール違反は枚挙に暇がなく、実例を挙げるたびに不愉快になるので、このくらいにしておく。
人馬ともに大怪我をする可能性も…
競馬人気が高まり、新しいファンが増えること自体は素晴らしい。ただ、その反動として厄介なことが起こるのは、今に始まったことではない。ファンファーレに合わせて観客が手拍子と大きな声を上げるようになったのは、武豊がデビューし、オグリキャップなどのスターホースが人気を博した1980年代後半からだったと思う。パドックなどで馬に向けてフラッシュを浴びせるファンが増えて問題視されるようになったのは、ディープインパクトやウオッカが活躍した2000年代なかごろからだ。ファンファーレの手拍子は、そうしたストレスをモノともしない馬と耐えられない馬とを選別する役割も果たしているので、勝負のうちと言えなくもないが、ともかく、牧場の見学マナーの悪化がこれほど叫ばれるのは、筆者が競馬界を取材している三十数年間で初めてであり、最悪であることは確かだ。
そういうファンには、丁寧に説明を繰り返していくしかない。
牧場は私有地である。そこに無断で侵入するのは、マナー違反を通り越して犯罪になることもある。馬も同様。牧場か、そこに預託する馬主の私有物だ。
そして、不慣れな人間が馬に近づくと、人馬ともに危険だ。蹴られたら、たとえ仔馬であっても骨折や内臓破裂などの大怪我をさせられるのは誰でも知っているだろうが、馬の最大の武器は「噛みつき」である。特に種牡馬は、種付けを経験することによって野性が目覚めて現役時代以上に攻撃的になるケースが多く、人の指など簡単に食いちぎられてしまう。
話は「蹴り」に戻るが、後ろに立たなければ安心というわけではなく、大牧場の厩舎長になるほどの腕利きでも、前脚で抱きついてくるようにパンチを出してきた馬に鼻骨と歯を数本折られた、という例を私は知っている。