酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
大谷翔平「憧れは捨てましょう」発言ベースに“データ活用の100%強振”「村上宗隆選手らの表情は…」侍分析担当が驚いた“WBC舞台裏”
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byNaoya Sanuki
posted2023/06/22 11:03
打撃練習中にタブレットを確認する大谷翔平。そのデータ活用をする姿勢に、ほかの選手も学んだことは多そうだ
〈大谷選手のあの打撃練習を目の前で見て、大変おこがましいですが僕も大きなショックを受けました。28歳であんなにすごいことをする人がいる。47歳の僕は一体いままで何をしていたんだ、本当に全力で努力してきたのかと。ホテルに帰る道すがら涙が出てきました。本当にいい経験をさせていただきました〉
「データ活用」の重要さを教えた大谷翔平
筆者も京セラドーム大阪で、圧巻の打球を連発する大谷の打撃練習を見た。大谷が一振りするたびに、球場中から潮騒のような声がドーム中に広がった。彼のパフォーマンスは野球選手以外にも多くの人々に、強烈なインパクトを与えていた。
〈先ほども言ったように、12球団にはトラックマンなどの打球速度測定器やブラストモーションもすでにあったんですが、バリバリの一軍選手でトラックマンとブラストモーションを活用する選手は聞いたことがない。ブラストモーションは高校野球部でも購入できる手頃なものです。二軍の選手はコーチなどの指示で装着することはありますが、一軍で自分からやっている選手は少ない。トラックマンで打球速度を計測する選手も少なかった。でも、今は少しずつですが活用する選手が増えてきた――と、数球団の関係者の方から聞いています。使い方についての相談もいくつかありました。
ポータブルのトラックマンは、多くの球団で1~3台くらいあります。高価だからラプソードみたいに何台もおいていないけど、これから増えてくるんじゃないかと思います。
ちなみにMLBでは20~30台くらい買っている球団がいくつもあります。その背景はいろいろあると思いますが、日本もアメリカも同じハードを持っていながら、日本では十分に活用できていない。日本がアメリカと全く同じようなデータドリブンであるべきとは思いませんが、その違いについて議論することはとても意義のあることだと思います〉
ダルビッシュと大谷が仲間たちに与えた影響とは
監督、コーチの中にはセイバーメトリクスやトラックマンなどの測定機器に興味がある人もいればない人もいる。第5回WBCの栗山英樹監督は、非常に関心が強い指揮官だった。
〈最初、厚澤和幸ブルペン担当コーチと2人でダルビッシュ有投手の投球データを見ていたんですよ。「もう、投手が2人いるようだね」と厚澤さんは上手い表現をされていました。日本の投手にはいない分布図だったので栗山監督に見せたら、とても関心を示して“他の投手のも見せてもらえる?”とリクエストをもらいました。栗山監督は日本ハム時代からデータに関心がありましたが、その視野と好奇心の広さに驚きました〉
第5回WBCは、おそらく日本の野球界を変える転機になるだろう。様々なフェーズで変革の気運が起こるだろうが、とりわけ選手のデータ活用の部分では、選手の意識改革が進むと思われる。