サッカー日本代表PRESSBACK NUMBER
「スラム出身のテベスは…」W杯優勝アルゼンチン在住30年“若き日本代表に接した”日本人の忖度なし印象「それがいいとは言いませんが」
text by
浅田真樹Masaki Asada
photograph byKiichi Matsumoto(JMPA)/Getty Images
posted2023/06/19 17:00
アルゼンチンで再び試練を味わったU-20日本代表。カタールW杯優勝国アルゼンチン在住日本人の視線から見えるものとは
「おとなしい選手が多くて、みんな部屋でゲームをしているような感じだったのに、佐藤くんはいろんなことに興味を持って、あれこれと聞いてきてくれたり、自分からもいろんな話をしてくれたり。そんな選手はほとんどいなかったので、すごくよく覚えています。好奇心旺盛だったので(将来を)楽しみにしていたのですが、やっぱりいい選手になりましたよね」
礼儀正しさはサッカーになるといいことなのか
では、今回のU-20日本代表は、田中さんの目にはどう映っていたのか。続けてその印象を尋ねてみると、「選手の表情などを見ていても、今回のチームもおとなしいという印象はあまり変わらない」とのこと。
「礼儀正しく、しっかりと団体行動ができるのはすばらしいことですが……」
田中さんはそう言うと、言葉を選びながら、「いざサッカーになると、それがいいことなのか……、正直、物足りなさを感じるところはありますね」とつないだ。
せっかくグループステージ初戦で勝利しながら、その後の2試合は先制しながらの逆転負け。とかく自己主張の激しいアルゼンチンサッカーを日常的に目の当たりにしている田中さんには、日本の戦いぶりが歯がゆいものに見えたとしても不思議はない。
「日本の選手たちはきちんとした教育を受けて育ってきている。だから、先生の言うことは聞かなくちゃいけないという感覚がある。けれども、こちらの子どもたちは先生の言うことをあまり聞かないというか、そもそもサッカー選手のなかには十分な教育を受けていない子も多い」
テベスなんてスラムで育って怖いものなしですよね
そう語る田中さんが、「例えば」と言って名前を挙げたのは、かつてアルゼンチン代表で活躍したカルロス・テベスである。
「テベスなんかはスラムで育って、教育らしい教育を受けていないから、何を言われても動じない。そのメンタリティはすごいし、怖いものなしですよね」
そのテベスを擁するボカ・ジュニアーズが強かった2000年代はじめ、田中さんはボカの選手たちに「監督のカルロス・ビアンチはどこが優れているのか?」と聞いてみたことがあるという。返ってきた答えは、「言うことが簡単でわかりやすい」だったそうだ。
「監督がどんなに細かく戦術的な分析をして指示を与えようが、ピッチに入ったら何が起こるかわからない。だから、選手がもっと主体性を持ってやらなければいけないんだと思います。僕も日本にいたら違う考えだったかもしれないけど、こういうところにいると、そう言いたくなっちゃう。そんなことやってるから、最近の南米は強くないんだって言われちゃいそうですけど(笑)」