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「中華料理店を探しておけ」“スター嫌い”トルシエは意外と優しい?「FIFA指定の劣悪ホテルを直談判で変更」黄金世代ワールドユース準V秘話
posted2023/06/20 11:01
text by
山本昌邦&武智幸徳Masakuni Yamamoto&Yukinori Takechi
photograph by
Kazuaki Nishiyama
スター嫌いのトルシエと選手の関係
武智 オフト監督の時は最初、選手とぶつかりながらチームが次第に一つになっていきました。トルシエ監督と選手の関係はどうだったのですか。
山本 トルさんは、ご存じの通り、スターが嫌いでした。
武智 スターシステムはいらないという人でしたね。
山本 そういうはっきりしたものが、まずありました。例えば、一人の選手がテレビのインタビューを受けて場内のビジョンに映し出されたりすると「ノー、スター!」と言っていましたから。「こいつはスターじゃない!」って。その選手が悪いわけではなく、取り上げるメディア側のリクエストに応えただけなのですが、一貫して「スターはいらない」と言っていた。指示していることをしっかりやっておけば間違いないという思いからなのか、自分がスターなんだという思いなのか。先ほども言いましたが、主従関係をはっきりさせたい性格だったのは間違いないですよね。
武智 トルシエさんに私も言われたことがあります。「私は大きな赤ちゃんなんだ」って(笑)。赤ちゃんかどうかはともかく、駄々っ子みたいな一面がありましたよね。それが妙に可愛いというか憎めないというか。
山本 その一方で、とても繊細というか、常に悩んでいるようなところもあった。それは付き合っていく中でだんだんとわかってきたのですが、選手を怒鳴り散らしておいて、その後で「あいつは怒ってないか?」と何度も私に聞いてくるようなところがある。反応を気にしているんですよ。最初は選手もそんな性格をわかっていないから、面食らっていたと思います。実際、監督のやり方に選手も反発した。選手が主張するのは当然だったと思いますが、それも時間の経過とともに、収まるというか、選手の側がトルシエ監督のやり方に慣れていきました。
彼の目には和気あいあいと映ったのでしょう
武智 山本さんたちスタッフも、そんなトルシエさんに慣れていった?
山本 ええ。だから、トルさんに「あいつは怒っていないか?」と聞かれたときには「あなたがみんなの前で怒って、あいつの誇りを傷つけるようなことをしたから、きっと彼は部屋で腹を切っていると思うよ」と冗談交じりに返したり(笑)。自分の誇りを傷つけられることに対して、日本にはハラキリ文化というものがあって、辱めを受けると先祖に申し訳ないと言って腹を切るんだと(笑)。だんだん、そういうことも言えるようにもなっていきましたね。