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“7時間目まである公立進学校の野球部”の意識改革はイチローさんの指導から…「考え方や姿は選手に響いた」かけがえのない経験とは 

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間淳

間淳Jun Aida

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photograph byNaoya Sanuki

posted2023/06/18 11:01

“7時間目まである公立進学校の野球部”の意識改革はイチローさんの指導から…「考え方や姿は選手に響いた」かけがえのない経験とは<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

イチローさんの指導を受けた際の県立富士高校。彼らは稀有な経験を得て、どんな気づきを得たのか

 昨年12月の直接指導では、ティー打撃を披露した。声を出しながら1球1球に力を込めてスイングし、3球打つと息が上がっていたという。息を切らしながらティー打撃の意図を説明するイチロー氏。その言葉を聞き逃さないように、選手たちは集中していた。

 このティー打撃を見てから、二塁手のレギュラー富永大輝選手はイチロー氏と同じように練習している。「イチローさんほどの選手でも、1球も無駄にせず打撃練習していました。練習に狙いを持って質を高めていけば、時間が短くても上達できると感じました」。声を出し、1球1球に全ての力をぶつけてスイングする。正捕手の渡邉俊介選手は「練習のやり方次第で、練習時間が長いチームと同じ効果を上げられると思っています」と力を込める。

フリー打撃の姿を見て学んだこととは

 イチロー氏のフリー打撃も、富士高校ナインに意義のある時間となった。決して大きくはない体から次々と柵越えを放つ姿に、選手たちは体の使い方次第で打球を遠くへ飛ばせると学んだ。富永選手は「バッティングは下半身を使うと考えていましたが、イチローさんの股関節で打つという言葉が印象に残っています。ボールを目ではなく体で見るというのも、股関節の動きからの応用と教えてもらいました」と語った。稲木監督は、こう話す。

「イチローさんはメジャーの長距離打者のような打撃は自分の体ではできないと話していました。どのように体を使えば100%の力を出せるか考え、メジャーで活躍した選手です。うちのチームの2、3年生には身長175センチ以上が1人しかいません。体重は50キロ台、60キロ台ばかりです。富士高校の選手から見たら野球強豪校の選手はメジャーリーガーのような感じなので、イチローさんの考え方や姿は選手たちに響いたと思います」

自主練習も今では迷わず有効活用している

 富士高校が「明るく元気に良い表情で野球をする」を目標に掲げているからといって、勝敗にこだわっていないわけではない。日々の練習で設けられる自主練習、練習試合翌日の月曜日に取り入れる課題練習は、勝利を逆算したメニューといえる。

 どちらの練習も、内容は選手に任されている。

【次ページ】 イチローさんの指導を受けてからは…

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