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“7時間目まである公立進学校の野球部”の意識改革はイチローさんの指導から…「考え方や姿は選手に響いた」かけがえのない経験とは 

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間淳

間淳Jun Aida

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photograph byNaoya Sanuki

posted2023/06/18 11:01

“7時間目まである公立進学校の野球部”の意識改革はイチローさんの指導から…「考え方や姿は選手に響いた」かけがえのない経験とは<Number Web> photograph by Naoya Sanuki

イチローさんの指導を受けた際の県立富士高校。彼らは稀有な経験を得て、どんな気づきを得たのか

 富士高校では、金曜日を除いて授業が7時間目まである。金曜日以外は練習開始が午後5時。午後7時には練習を終えてグラウンド整備に入る。火曜日はオフで、試合のない土日は活動を半日にしている。勉強時間を確保するためだ。

 私立高校と比べれば練習時間は圧倒的に短く、練習環境も恵まれているとはいえない。グラウンドは陸上部やハンドボール部などと共用で、外野手のノックができない日もある。運動部は月、木曜に活動しない部活が多いため、野球部は火曜をオフにしてグラウンドを目いっぱい使える日を増やしている。

30分間隔で時間を区切り、練習への目的意識を

 練習の特徴は「時間管理」と「効率」。30分間隔で時間を区切り、30分の枠に2つのメニューをはめ込むやり方が基本となっている。メニューは「ボール回し」、「牽制練習」、「バント練習」、「フリー打撃」など様々な選択肢を用意。各メニューは必ず時間内に完結し、延長はしない。1分1秒を大切にする意識や日々の練習への目的意識が芽生える。練習中に稲木監督と選手の間では、こんな会話が交わされる。

 監督「内野手は個人ノックをしよう。外野手はどうする?」
 選手「打撃練習をしようと思います」
 監督「どんな内容にしようか?」
 選手「きのうの練習試合で体が開いている打者が多かったので、正面からのティー打撃で修正します」

 無駄な時間を徹底的に省いて最大限の効果を生む方法を突き詰めた結果、練習の王道とも言えるシートノックの時間を大幅に減らした。ノックはプレーしない待ち時間が長い。それよりも、2人1組になってボールを転がしてハンドリングの精度を上げたり、送球を磨いたりする方が時間を有効活用できる。稲木監督は「私がノックバットを振らない日は珍しくありません。選手の可動性を上げて、効率良く必要な動作を身に付ける方法を考えています」と話す。

 稲木監督は高校野球においてもフィジカルの大切さを感じている。ただ、1日2時間ほどの練習でトレーニングに割く時間はない。捕球動作の反復で内野手に求められる動きとスクワットによる筋力アップを同時に図るなど、メニューを工夫している。

野球部に自信を与えた、イチロー氏の存在

 1つ1つの練習の質を向上させれば、短い時間でも効果を上げられる。富士高校野球部に自信を与えたのが、イチロー氏だった。

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