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「負けさせてやってよ…」大阪桐蔭の“連敗”を私はこう見た…「勝利が絶対」「練習試合の敗戦もニュースに」なぜ今“変わりそうな気がする”のか
posted2023/06/06 06:00
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
Nanae Suzuki
こんなことまでニュースになるのか――。
編集者から届いたメールを読んだ時、その話題性の高さに驚いた。春夏連覇2度を含む9度の全国制覇を誇る大阪桐蔭が6月1日、名古屋バンテリンドームで行われた栄徳高校、享栄高校との練習試合に敗れたというのだ。
負けさせてやってよ…
率直なところ、「負けさせてやってよ……」というのが印象だ。一方で、敗戦が話題になるほど大阪桐蔭が勝つことを義務化されたチームであるということもまた、事実なのだろう。
ここ数年の大阪桐蔭を見ていると、勝利に取り憑かれている印象がたしかにあった。世間が求める「大阪桐蔭=常勝」であり続けなければいけない――過剰に勝利が求められている気がしてならなかった。
選手育成の点から考えれば「必要な敗戦」と捉えられる試合があっても、指揮官の西谷浩一監督は「先のことを考えて指揮を執っていない」といったニュアンスを口にし、「勝利が絶対」の姿勢を崩そうとしなかった。
もっとも、勝利を追い求めることにも意味はある。個人的な意見では、高校野球で勝利することの意義は、“次の緊張”に出合えることにある。
「勝利を求める」意味
たとえば、地区大会の1回戦と準々決勝戦では緊張の度合いが異なる。準々決勝と決勝でも然りだ。甲子園初戦、ベスト8、決勝……と、それぞれに独特の緊張感がある。
一発勝負のトーナメントが主流の高校野球の公式戦において「勝つこと」の意義を探るならば、頂点に立ち優勝校の称号を得ることでも、他校を圧倒することでもない。勝ち進むごとに新たな緊張に出合い、そこでプレーすることで、選手は成長できるのだ。
この「緊張感」について、エンゼルスの大谷翔平が日本にいた頃、こんな話をしていたものだ。
2016年に、リーグ制覇がかかる試合で、高校の先輩・菊池雄星(当時西武)との投げ合いを制して1安打完封を収めた時のこと。
「僕にとって、緊張感のある試合が自分を成長させてくれるものだと思っています。今日の試合もそうですし、国際大会などでも同じです。特に、今日は相手投手が雄星さんだったんで、僕にとっては特別な存在なので、そういう意味では今日の試合で成長できたかなと思います」