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「魔術や! 超奇襲や!」阪神・野村克也監督の”奇策”はいかにして生まれたのか?「奇策は、8割の勝算があって初めて仕掛けるもんや」
text by
佐藤春佳Haruka Sato
photograph bySANKEI SHIMBUN
posted2023/06/06 11:00
1999年から3シーズン、阪神を率いた野村克也監督
「これが野球なんです! 投げて、打ってばかりが野球じゃない。好走塁からの勝ち方は、オレとしては気分がいいわな」
えびす顔の野村は、快勝に沸く三塁側のトラ党の大歓声に応え、何度も帽子を振ってみせた。阪神が2ランスクイズを成功させたのは、1982年8月の巨人戦以来、実に17年ぶり。翌朝の関西スポーツ紙の1面には、こんな見出しが躍った。
「魔術や!」、「超奇襲や!」
ノムラの考え「走塁には野球に対する考え方が出る」
ヤクルト時代から参謀役をつとめ、野村に請われてヘッドコーチとして阪神入りした松井優典は、指揮官の嬉しそうな顔をよく覚えている。
「前年の秋のキャンプからずっと練習してきた成果なんですよ。スクイズというサインの中で、セカンドランナーは必ずチャンスがあればホームを狙え、と。それが浸透していたからこそ成功した。野村さんは常に『走塁には野球に対する考え方が出る』と言い続けていましたから」
'98年10月に就任した野村新監督がチーム改革としてまず手をつけたのが走塁だった。秋、春のキャンプを通じて、昼間はグラウンドで走塁練習に長時間を費やし、夜はミーティングで「ノムラの考え」を選手に叩き込んだ。松井が述懐する。
「ベースのどこをどう踏むかというところから始まって、ダブルスチールやホームスチール、2ランスクイズ、トリックプレーに至るまで練習の中に入れていました」
通常「2ランスクイズ」というサインはない。「スクイズ」の指示に対し、二塁走者がサードへと走りながら瞬時に判断を下しホームに突入できるかが肝になる。
「相手の守備位置やピッチャーの投球の癖、グラウンドの状況に対して常に集中して観察すること。野村さんの言葉で言えば『目のつけどころ』が、こういうプレーを成功させる上で一番大事なんです」
実は、野村と2ランスクイズには因縁がある。