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プロ野球5球団のスカウトが熱視線「高校時代は超無名、野球はやめるつもりだったのに…」ドラフト上位候補に急浮上した北海道の183cm左投手
posted2023/06/06 17:01
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
あれは確か、2019年の夏前ごろだった。
取材先の小樽のホテルで朝、新聞を広げていたら、地方版の隅っこに「夏の甲子園大会・支部予選展望」なる小さな記事を見つけた。
北海道の高校野球は、夏の甲子園大会出場校を決する「南北海道大会」と「北北海道大会」の前に、例えば「札幌支部」や帯広周辺の「十勝支部」というように支部大会を行って、南・北北海道大会の予選としている。
その「小樽支部」の記事が載っていて、こんな記述があった。
「寿都高・滝田一希投手は183センチの長身左腕」
調べてみれば、寿都は「すっつ」と読むそうで、小樽から南西へおよそ100キロの港町。レンタカーが足の出張だったから、小樽から2時間ほどだ。予定を1日延ばして、練習を見に行こう。即決で、寿都高に向かった。
着いてみると、5分ほどあれば人家のある場所を通り抜けてしまいそうな漁港の町で、海から山に向かって、小高くなっている場所に寿都高があった。
練習はしていたが、ユニフォーム姿の中に「183センチの長身」が見当たらない。近くに来た選手に聞くと、今日はたまたま休みだという。
滝田投手の「投」について、プレーが見られなかったのはとても心残りだったが、代わりに、とんでもなく足が速いことを教えてもらった。
183センチの長身左腕がとんでもない俊足……それだけで間違いなく「将来性と伸びしろ」だから、そこがわかっただけでも大収穫。いずれどこかで、そのプレーを見ることになるだろう。大きな楽しみを1つお土産にして、自分なりに納得して帰ったのを覚えている。
記者席で「不思議なピッチャーですよ」
そんな伏線があったから、2年前に星槎道都大(北広島市)の2年生で「滝田一希」という左腕が台頭してきたことが聞こえてくると、あの時の……と、胸が躍ったものだった。