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ソフトバンクスカウトも関係者もホメた「5勝無敗は本当にスゴい」“現役ドラフト組”阪神・大竹耕太郎(27歳)はなぜ覚醒できたのか?
posted2023/05/25 17:05
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
JIJI PRESS
昨年12月、第1回の「現役ドラフト」が行われて、ソフトバンク・大竹耕太郎投手が阪神タイガースに移籍したと知って、よかったなぁ……と思っていた。
プロ球団が3つぐらい出来そうな質・量ともに潤沢なホークス投手陣の中で、なかなか回ってこない順番を待っているより、一軍の先発ローテーションに、伊藤将司くらいしか左腕のいない阪神のほうが「働き場」があるだろう。
2017年の育成ドラフト4位で、早稲田大学からソフトバンクに入団。プロ2年目に、一軍の先発で5勝を挙げた実力を、新しい球団、新しいリーグで発揮してくれたら……私も大学野球部の同窓の端くれとして、すごく期待していた。
ソフトバンクスカウトも「5勝無敗って、本当にすごい」
そして阪神で早速5戦5勝。先発のマウンドに上がるたびに、丁寧に丹念に両サイド低めを突きながら、ピンチには持ち前のファイティング・スピリットを感じさせるピッチング。5月20日の広島戦でも、勝ち星は付かなかったものの、やはり先発の7イニングを6安打無失点に封じて、内容的には立派な「6戦6勝」をやってのけた。
今のプロ野球では、劣勢の展開でリリーフに上がる投手でも、150キロ前後のスピードは当たり前。そんな中で、速球は140キロ前半。ストライクゾーンぎりぎりからスッと沈むツーシーム系のボールを打たせて凡打に打ち取るスタイルで、打者心理を逆手にとる。
見るからに意志の強そうな表情は、打たれてもピクリともしない。剛球はないのに、打てるものなら打ってみろ!……そんな堂々のマウンドさばき。これなら、守ってる野手も頼もしい。
「よし、どんな打球でも受けて立とうじゃないか!」
投手とバックの間に好循環が生まれて、守りも締まる。
1970年代、130キロ後半程度の速球に、球速を殺したカーブ、シンカーを駆使して、王貞治、長嶋茂雄までも自在に翻弄し、74年には「20勝」を挙げてセ・リーグ最多勝投手に輝いた松本幸行(ゆきつら、中日・阪急)という左腕がいたが、背格好、ピッチングスタイル……ピッタリ重なる。