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ソフトバンクスカウトも関係者もホメた「5勝無敗は本当にスゴい」“現役ドラフト組”阪神・大竹耕太郎(27歳)はなぜ覚醒できたのか? 

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安倍昌彦

安倍昌彦Masahiko Abe

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photograph byJIJI PRESS

posted2023/05/25 17:05

ソフトバンクスカウトも関係者もホメた「5勝無敗は本当にスゴい」“現役ドラフト組”阪神・大竹耕太郎(27歳)はなぜ覚醒できたのか?<Number Web> photograph by JIJI PRESS

昨年12月の現役ドラフトでソフトバンクから阪神に加入した大竹耕太郎(27歳)

 立ち話だったが、今ある状況をいろいろ話してくれて、いちばん印象に残ったひと言が、

「自分にも、信じるところはあるので……!」

 あえて「!」を付けたのは、そこが妙に決然としていたからだ。 いつも見ていたピッチングスタイルとの違和感があった。

 当時、スピードは135キロ前後。すでに140キロ台が当たり前になっていた六大学の打者たちを、カーブやチェンジアップ系の変化球でのめらせて打ち取るスタイルだったから、もっとおっとりとした青年なのかと、勝手に思い込んでいた。

 力強い顔つき、しっかりとこちらを見据えながら語る時の目力の強さ、口調は穏やかでも語尾は明確に言いきる語り口……確かに、内面は“ピッチャー”に間違いなかった。

 4年生の秋になって、神宮のマウンドにカムバックしてきた大竹投手の様子を見ていて、捕手のサインに首を振った後、次のサインに合意したうなずき方の強さにハッとした。

「そうだろう、ここはそのボールしかないだろう!」

 そんな確信を表情にして、深く大きくうなずいていた。

ソフトバンク関係者「哲学者っていうんですかねぇ」

 さきほどのソフトバンク関係者の話に戻る。

「我の強さっていうのか、意志の強さみたいなものは、ピッチャーには絶対必要なものです。大竹の場合は、哲学者っていうんですかねぇ……彼自身の道理にかなっているかどうかって、すごくあったと思いますよ。だからといって、自分の殻に閉じこもるわけでもなくて、遊ぶのも好きだし、みんなとワイワイやるのも大好き。今の時代の青年なんだけど、ちょっと人より骨っぽい……いいヤツなんですよ」

 この“哲学者”という言葉を聞いていたから、甲子園のDeNA戦で5勝目をあげた時の談話に、登板のたびに雨が降る巡り合わせを「砂漠の中の草みたいなイメージ」とあったのが、大竹耕太郎らしくて、思わずニヤッとしてしまった。

 追い風は、いくつもある。

 まず、いいお手本に恵まれている。ソフトバンクで「師匠」と仰いでいたレジェンド左腕・和田毅の存在。そして、今年から「同僚」になった伊藤将司の存在。140キロ前後の速球でも、左打者の内角を突ける技術と静かに燃える闘争心で、勝ち星を積み上げるサウスポーだ。

 さらに刺激もあるはずだ。昨年まで同僚だった田中正義投手の奮戦ぶり。今季日本ハムに移籍して、ストッパーに立ち位置を見いだして、ここまで(5月24日現在)6セーブを挙げる。

 自分にも、信じるところはあるんで……。書き進めてきたら、彼のこの言葉が、もう一度耳に聞こえてきた。

 後輩だからといって、早稲田大学野球部の偉大な先輩・岡田彰布監督がエコヒイキするほど、プロ野球の世界は甘くない。シーズン10勝して、岡田監督1年目の「アレ」に大貢献することになれば、きっと「大竹がいてくれたおかげ……」と厚い信頼を獲得できて、彼の野球人生にとって、これ以上ない追い風になることだろう。

 まだ梅雨前。まもなくやって来る高温多湿にそこまでの疲れも重なる「正念場」の時期を、一流の涼しい顔で乗り越えて、もうひと回り大きな「大竹耕太郎」に変貌していくことを、陰ながら願っている。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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