炎の一筆入魂BACK NUMBER
合言葉は「TIJ」 日本式をポジティブに受け入れ、3連覇と似た雰囲気を醸し出すカープ外国人選手の存在感
posted2023/05/08 11:01
text by
前原淳Jun Maehara
photograph by
KYODO
「ベンチの雰囲気があのときと似ている」
4月戦線の中、3連覇を知る広島の選手がそう口にした。
DeNAが好発進した中で、広島は勝率5割を行ったり来たりの戦いが続いている。だが、チームの雰囲気はいい。新井貴浩監督自ら示す明るさだけが、理由ではない。打つべき手を打ち、仕掛けるときは仕掛ける。地に足付いた野球に、先を見据えて主力に休みを与えながらの起用法もあるのだろうか。不思議なことに、首位にもなった昨季序盤よりもチームに落ち着きがある。
そんな雰囲気をつくっているのはもちろん監督やコーチ陣だけでなく、ベテラン、若手を問わず日本人選手、さらには外国人選手の存在もある。2004年から広島で通訳を務める松長洋文は、冒頭の選手と同じような感覚を抱いている。
「戦術的なことは分かりませんが、外国人選手たちの存在感が優勝する前の2010年代前半の雰囲気に似ている気がするんです。チームは強くなっていくんじゃないかなと期待しているんです」
そう語る当時は、ファンの間で“ママチャリ通勤”が話題となり、「カントリー」の愛称で親しまれたブラッド・エルドレッドをはじめ、投手にはブライアン・バリントン、サファテらがいた。彼らは積極的に日本に馴染もうとし、チームに溶け込もうとした。
日本流儀を受け入れた外国人選手たち
日本式を受け入れようとバリントンが口にした「TIJ」という言葉は、その後広島に入団してきた外国人選手たちの合言葉のようになっていった。「This Is Japan(これが日本のやり方なのだ)」という意味だ。ネガティブではなく、ポジティブに受け入れる言葉として受け継がれている。
今年チームにいる選手たちも日本式を受け入れている。外国人全選手が春季キャンプに参加。一部別メニューとなっても、自らバットを持って打撃練習したり、ウエート場でトレーニングしたりと自主性が見られた。
外国人同士だけでなく、日本人選手とともに食事に行くこともあるようだ。マット・デビッドソンがホームランを打った際に見せる“ごますりポーズ”も、野間峻祥らチームメートとの食事会から生まれたもの。コロナによる規制緩和も、結束の強さを高める要因となっている。