進取の将棋BACK NUMBER
「藤井聡太先生と戦うなら…2日制と早指し戦どっちがいい?」中村太地八段のリアルな答え「その境地を体験したいんです」
text by
中村太地Taichi Nakamura
photograph byJIJI PRESS
posted2023/04/27 11:03
第72期王将戦での藤井聡太王将と羽生善治九段、立会人の谷川浩司十七世名人。時代を彩った将棋の天才は“超過密日程”でも勝利を積み重ねてきた
さらにタイトル戦のような盤勝負になった場合、1回戦っておしまいではなく第2局、第3局……とシリーズ全体を考えて戦う必要がある。野球の先発ローテーションのように「ここの一局をぜひ取りたいからこの作戦をぶつけよう」とシミュレーションを立てたり、逆に対局結果を受けて「むしろ先にこの作戦で行こう」と変更したり。そう考えていくと……3日では足りませんね、1週間でも2週間でも考えたいほど(笑)。
そんな思いが頭をもたげてもおかしくないところ、藤井竜王は短い対局間隔にあって、盤上からまったくそういった不安点を感じさせることがない。序盤からリードして勝ち切っているという点に、心身ともにタフさがあるな、と。
「持ち時間」のタイムマネジメントも非常に重要
タイムマネジメントという観点で見れば対局中の「持ち時間」も重要です。名人戦は「2日制の持ち時間各9時間」、叡王戦は「1日制の持ち時間各4時間」。これだけ戦う時間が大きく違うのは、マインドスポーツである将棋だからこそかもしれません。2日制だと序盤は非常に突き詰めて考えられる――今期の名人戦1局目がまさにそうでした――と思いますが、持ち時間が短くなればなるほど、感覚で指さなければいけない局面が生まれる。
藤井竜王は名人戦第1局では22分を残して勝利した一方で、叡王戦第1局ではかなり早い段階で持ち時間を使い切って秒読みの1分将棋(1手ごとに1分以内に指さなければ反則負けとなる)となった中で勝ち切りました。早指し戦が多い一般棋戦のグランドスラムを含めて、持ち時間にそれぞれアジャストしていると言えるでしょう。
長時間対局と早指し戦、藤井竜王とどちらで戦いたいか
そんな中で1つ、聞かれて興味深かったことがあります。
「太地先生は現在、藤井竜王と戦うと仮定した場合、早指し棋戦と名人戦・竜王戦のような2日制や順位戦などの長時間対局、どちらで戦ってみたいと感じますか?」
これに対する答えとしては「勝つ確率が少しでも上がりそうなのは早指し戦」「長ければ長い時間の方が将棋を楽しめるはず」、というところでしょうか。
早指し戦に関しては一手一手について考える時間が短くなるため、双方にミスが出ることが前提で進みます。仮に藤井竜王にミスが出たとして、そこを上手く打ち返せればチャンスがあるかもしれない。先に挙げた一般棋戦グランドスラム達成が示す通り、藤井竜王はそこでも抜群に強いですが――強者に対して一発が入りやすいのは間違いなく早指し戦ではあります。
ただ、棋士としては将棋の真髄を少しでも知るために、長く戦いたいというのが本心です。