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「藤井聡太先生と戦うなら…2日制と早指し戦どっちがいい?」中村太地八段のリアルな答え「その境地を体験したいんです」 

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中村太地

中村太地Taichi Nakamura

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posted2023/04/27 11:03

「藤井聡太先生と戦うなら…2日制と早指し戦どっちがいい?」中村太地八段のリアルな答え「その境地を体験したいんです」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

第72期王将戦での藤井聡太王将と羽生善治九段、立会人の谷川浩司十七世名人。時代を彩った将棋の天才は“超過密日程”でも勝利を積み重ねてきた

 対局の準備に関しては、序盤戦の研究が多くを占めます。将棋は「序盤・中盤・終盤」と言われる中で序盤が大半なのか、と驚かれる方が多いかもしれませんが――AI研究が進んだ現代将棋は以前に比べて序盤への研究が急激に進んできたと、一棋士として感じています。さらに居飛車党の渡辺名人、振り飛車党の菅井八段と戦うので、短期間のうちに準備すべき作戦が単純に2倍になる。これは相当大変だと思います。

大谷選手やダルビッシュ投手のような多彩な球種を

 では、対局に向けて私の場合はどのように準備しているか。

 まずは相手が最近はどのような戦法を重視しているのか。突き詰めていくと何通りかが見えてきます。それに対する対抗策を自分なりに考えながら、最近ではAIにも少し分析させています。とはいえ分析した相手も毎回同じ手筋をやってくるわけではありません。

 この辺りの考え方は「野球のピッチャー」に似ていると言えるでしょう。WBCで活躍した大谷翔平選手やダルビッシュ有投手、山本由伸投手といった日本屈指のピッチャーはストレート、スライダーやカーブ、スプリットにツーシームなど様々な球種を駆使して相手打者を抑え込みにかかりますよね? 実は将棋でも強い棋士になるほど「絶対的な決め球を持ちながらも、色々な球種を使ってくる」感覚があります。

 例えるなら現在、メジャーでも快投を続ける大谷選手はスライダー(アメリカではスイーパーと表現されるそうですね)で三振を量産していますが、藤井竜王にとっては「角換わり」が現在のエース戦法、つまり一番の“決め球”にあたります。ただ大谷投手はスプリット、カーブといった球種も抜群のキレ味があるように――藤井竜王は「相掛かり」「矢倉」などでも8割超の勝率を誇ります。相手からしてみれば〈何を狙い球にすればいいんだ〉という状態ですよね(苦笑)。

序盤戦だけで「最低でも3日は欲しい。1、2週間でも…」

 少し飛躍したので私自身の準備について話を戻すと……棋士それぞれに作戦は変えてくるので、そういったところを含めて用意しておきます。さらに念頭に置いておくのが「将棋界全体の流行」です。現在は角換わりが流行していますが、ふとしたタイミングで別の戦型が流行する――そのサイクルが現代将棋では非常に速くなっています――ことがある。棋士はそういった流行に敏感ですし、自分自身もやはり研究する意義があるなと感じるので、そこも調べたりしますね。

 このような要素を考えていくと、一般的な対局だとしても序盤戦だけで「最低でも3日は欲しいよな……」と思うのが偽らざる気持ちです。

【次ページ】 「持ち時間」のタイムマネジメントも非常に重要

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