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武尊の“1試合1億円”契約はなぜ実現した? ABEMA格闘プロデューサーが明かす“破格契約の真意”とネット配信の未来「1億円は武尊選手への誓い」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2023/04/19 11:01
6月の復帰戦に向けた会見に登場した武尊
「“1億円”は武尊選手がやってきたことへの評価」
「私が思うのは、選手主導になっているということ。(団体、プロモーションに加えて)スター選手が動くところにメディアもついていく。その中で、ネットの特性、強みもあると思います」
それは、言ってみればフットワークのよさだ。たとえば、井上尚弥のスーパー・バンタム級転向初戦は負傷により日程が変更された。その場合も、ネット中継であれば対応しやすいという。番組の「枠」(他の番組との兼ね合い)や番組スポンサーとの交渉といった要素が、そこまで重要事項にならないからだ。海外での試合も、ネットのフットワークが活きる。
「スターの存在とビジネスモデル、その両方がポイントでしょう」と北野氏。また、PPVに対するハードルが下がっているという現状もある。かつてPRIDEはCSでのPPV普及に一役買ったと言われているが、今は決済も含めすべてがスマホの中で完結する。それだけ若年層にもリーチしやすい。
PPVという土壌あっての“1億円ファイター”誕生。だがこの1億円という数字はどこから出てきたものなのか。武尊の復帰初戦が発表されると「ABEMAはこの試合で1億以上稼げるのか」という声も出てきた。
K-1やRISE、RIZINといった日本のファンになじみのある舞台ではなく、フランスでの試合。相手も日本では有名とは言えない。だが、会見で北野氏はこうコメントしている。
「(格闘技界が)さらに夢のある世界になるためにも貢献したい。1億円というのは、細かい計算よりも武尊選手がやってきたことへの感謝と評価。業界を変え、他の選手もそれを目指す。夢が持てる分かりやすい数字としての1億円です」
北野氏が語る「ネット配信の未来」
筆者のインタビューには、こう答えてくれた。
「武尊選手は、これまでABEMAで中継されるK-1を牽引してくれました。これまでやってきたことを考えると、とてつもない契約ではないとも思います。1億円には、ビジネスパートナーに対する“誓い”のような意味もありますね」
この春から世界最大のMMAプロモーション・UFCがU-NEXTで配信されるようになるなど、各プラットフォームでの格闘技コンテンツ獲得競争も激化しているように見える。その中でプレゼンスを示すための“PPV専属”であり“1億円ファイター”でもあるのだろう。同時に、PPVやサブスクリプションでビッグマッチが配信される時代だからこそ、無料視聴も大事になってくると北野氏は見ている。
「武尊選手や、RIZINで対戦した皇治選手、芦澤竜誠選手はABEMAのK-1無料中継で世に出た選手たちです。那須川天心選手にとっては地上波で中継されていたRIZINが大きかった。それにバラエティ番組などにも出ていますし。朝倉未来選手はYouTube。今、PPVが売れる選手も、もともとは無料コンテンツあっての人気なんです。
だから我々も、PPVスターを生み出すためにも無料コンテンツに力を入れなければいけない。その重要性はこれからさらに増していくと思っています」