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「なめてんのか、お前!」古橋亨梧が興国高監督に怒鳴られた日…欧州で大ブレーク、スピードスターの覚醒秘話「あいつは孫悟空みたいなんです」 

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松本宣昭

松本宣昭Yoshiaki Matsumoto

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posted2023/04/09 11:06

「なめてんのか、お前!」古橋亨梧が興国高監督に怒鳴られた日…欧州で大ブレーク、スピードスターの覚醒秘話「あいつは孫悟空みたいなんです」<Number Web> photograph by Getty Images

スコットランドリーグで日本選手初の得点王が期待される古橋亨梧。今の活躍に至るまでの歩みは決して順調ではなかった

「あの頃はバルサ全盛期。バルサのサッカーを目指していた僕らは、サイズよりもスピードと技術が大事と考えていましたから」

 練習試合後、内野はさっそく「色白でガリガリ」の少年を呼び出した。

内野が語りかけた「世界で戦える選手になれる」

「ぜひ、興国に来てほしい。君の持って生まれたスピードと、独特なタイミングでの裏抜けは、すごく魅力的や。動き出しのタイミングって、才能の部分でもあるから、簡単に教えてできるもんじゃない。足も、教えれば簡単に速くなるもんじゃない。君はそういうタレントと呼ばれる部分を持っている。でも、自分で仕掛けていく部分はそんなに得意じゃないよね? 興国は今のバルサやスペイン代表がやっているような、ウイングを置く4-3-3のシステムのサッカーをやろうとしている。うちのウイングとして、そのスピードと裏抜けを活かしながら、自分で仕掛けていけるドリブルを身に付ければ、世界で戦える選手になれると思うよ」

 すぐに古橋から興国への進学を希望する連絡が届いた。入学後、内野はさっそく古橋をトップチームのメンバーに入れ、ボールの置きどころを意識させながら課題のドリブルを徹底的に磨かせた。

 本家・孫悟空は、ハードな修行を積めば積むほど急成長する。しかし古橋の場合、そうではない。内野はその歩みを、こう例える。

ウサギ=南野拓実、カメ=古橋亨梧

「あいつは、呑み込みが早くてぐんぐん伸びていくタイプじゃないんです。天才型ではない。でも負けず嫌いで努力家だから、さぼらず、心を折ることなく、コツコツ、コツコツ練習してゴールまでたどり着くタイプ。『ウサギとカメ』で言ったら、完全にカメです」

 カメ=古橋。ならばウサギは興国の同級生で、セレッソ大阪U-18でプレーしていた南野拓実だったと言う。

「さぼらないところは亨梧と同じ。ただ、拓実は高校の頃から人間性もめちゃくちゃしっかりしていて、サッカーの成長スピードも速かった。僕も体育の授業で指導して感じたのは、すでに大人として成熟しているな、と。校内のほかの先生たちもリスペクトしていたくらいですからね。そんなウサギだから、誰よりも早くゴールに到達する。でも、拓実はゴール地点でちゃんとカメのことを待ってあげるようなタイプです。そんな性格だから、高卒でプロになっても問題ないと思っていました。一方の亨梧は、まだ子供。真面目で、優しいのはいいんだけど、まだ自分を確立できていなかった。だから、すぐプロになるよりも、大学に行って心身ともに成熟してプロになった方がいいだろうなと考えていました」

中央大か阪南大か

 当時、古橋の実力はチーム内でも4~5番目。それでも快足と無尽蔵のスタミナは強豪大学の関係者の目に留まり、高校3年になった春にはいくつかの学校から推薦入学の誘いが届いていた。その中から、進路は中央大か阪南大のどちらかに絞っていた。古橋の精神的な幼さが顔をのぞかせたのは、ちょうどその頃だ。

【次ページ】 内野は激怒した、古橋は泣いていた

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