- #1
- #2
欧州サッカーPRESSBACK NUMBER
「なめてんのか、お前!」古橋亨梧が興国高監督に怒鳴られた日…欧州で大ブレーク、スピードスターの覚醒秘話「あいつは孫悟空みたいなんです」
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph byGetty Images
posted2023/04/09 11:06
スコットランドリーグで日本選手初の得点王が期待される古橋亨梧。今の活躍に至るまでの歩みは決して順調ではなかった
「亨梧が高校3年になったばかりの頃だと思います。うちと興国で練習試合をやることになってね。その1試合を見ただけで、『あいつ、いいなぁ。うちで取るぞ』って決めていました」
オファーの決め手は、興国高の内野智章監督と同じく、スピードとディフェンスの背後に抜ける動き出しだった。さらに、中学時代は課題だったはずの自ら仕掛けるドリブルにも目を見張った。
「大学生がズバズバ抜かれてね。あのドリブルは印象的だった。すぐに『欲しい』って、ウッチー(内野)に伝えましたよ」
亨梧には並外れた心肺機能がある
古橋の能力が際立っていたのは、攻撃面だけではなかった。佐藤は古橋の守備能力にも驚かされた。中大練習グラウンドの端から端までを指さしながら、懐かしそうに笑う。
「さっきまで敵のゴール前で攻めていたのに、ボールを奪われたら自陣のゴール前までダーーッと戻って来るんですよ。真面目だし、根っからの負けず嫌いだから、守備も思いっきりやって、球際もガツガツ行く。普通ならスタミナが切れるはずなのに、亨梧には並外れた心肺機能があるから、それができる。危険な場所を察知する能力も高かった」
うまくて、速くて、走れる。先輩たちに混じってもさっそく頭角を現した古橋は、1年生ながらスタメンで起用され、全日本大学選抜や関東大学選抜Aのメンバーにも選ばれた。
性格は「生意気で、うるさかった憲剛とは違った(笑)」
ただし、性格は高校生の頃から変わっていない。中村憲剛ら、数々の名選手を育ててきた佐藤から見れば、古橋の人間性は良くも悪くも「普通」だ。優しくて、控え目で、「自分から積極的に周りに声をかけるタイプじゃない。生意気で、うるさかった憲剛とは違った」と笑いながら振り返る。
そんな普通の大学生が1年生の頃から全日本選抜に入れば、調子に乗ってしまうのも無理はないだろう。興国高時代からの精神的な幼さは、まだ残っていた。大学2年になると、古橋本来のアグレッシブなプレーが影を潜めるようになってきた。
負の変化を察知した佐藤は、ある人物に相談の電話をかけた。興国高校の内野だ。
「最近、亨梧のプレーが良くないんだよ。能力が高いのはわかってるんだけどさ」
全然、そんなキャラじゃないのに。何やってんねん
内野は教え子が卒業した後も、その成長を気にかけ、選手本人だけでなく進路先のチーム関係者とも頻繁に連絡を取り合う。だから佐藤の“愚痴”を聞いて、即答した。
「わかりました。じゃあ、1回見に行きますわ」
思い立ったら、即行動。内野は古橋が出場する関東大学リーグ戦を視察するべく、自腹で大阪から東京へ向かった。“本性”を見極めるために、あえて古橋本人には上京することを伝えなかった。
スタンドの片隅に腰を据えると、まだ試合開始前にもかかわらず、内野は「イラっときた」。ウォームアップを終えた古橋が、緩んだ表情で応援団に手を振っていた。
「全然、そんなキャラじゃないのに。何やってんねん、って」
<続く>