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定年を延長して社長に直談判…ホンダF1の窮地を救った最強パワーユニット生みの親、浅木泰昭がついに退職 

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尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

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posted2023/04/06 17:00

定年を延長して社長に直談判…ホンダF1の窮地を救った最強パワーユニット生みの親、浅木泰昭がついに退職<Number Web> photograph by Masahiro Owari

開幕戦バーレンGPを訪れ、レッドブルのチーフエンジニア、ポール・モナハンと挨拶を交わす浅木氏(左)

 そこから、折原が「エンジニア人生で最もタイトなスケジュールだった」と振り返るほどの異例のプロジェクトが始まった。開幕前のテストに間に合わせるためには、2021年1月にはPUを完成させねばならない。残り時間は4カ月しかなかった。

 その不可能とも思えるプロジェクトが結実したのは、最後の1年になんとしてでもチャンピオンになるという思いを、ホンダのスタッフが共有していたからだと浅木は言う。

「みんなの目の色が変わったのは確かです。あんな短い時間で新骨格を投入するなんて、通常ならあり得ない。そんな奇跡を起こすパワーを(撤退発表によって)絞り出せたわけです。ミルトン・キーンズ(イギリスのファクトリー)でバッテリーを作っていたスタッフだって、そうです。ただ私が思うに、彼らにはそれができる能力がもともと備わっていた。だって、シュンとしても不思議はないのに、逆に燃えて仕事をやり出した。それも才能だと思っています」

 折原がプロジェクトリーダーとなって開発された新骨格PUは、2021年のフェルスタッペンのドライバーズチャンピオンに大きく貢献。2022年からはホンダの子会社HRCからPU供給という形をとり、コンストラクターズも合わせダブルタイトルを獲得。今シーズンも開幕から3連勝を達成し、総合力で最強と言われている。

ホンダがF1に参戦する意義

 折原は今年、現場のリーダー役となるトラックサイド・ゼネラルマネージャーを務める。一方の浅木は、勇退前最後の現場視察として開幕戦バーレーンGPを訪問し、ホンダがF1を続ける意義を次のように説いた。

「F1は世界最高峰のレース。勝利は世界一の技術がなければ達成できない。そんなレースはほかにはない。レースはホンダのDNAと言っていますが、どんなレースでもいいというわけではない。だからホンダは、F1に参戦してきました。世界一になって得た自信は、ホンダにとってかけがえのない財産になります」

 レッドブルの要請を受けて今季もPUの開発と製造を担うHRCは、現場でのトラックサイドサービスを2025年末まで行うことになっている。

 さらにHRCは、2026年から導入される新PUの製造者登録を国際自動車連盟(FIA)に行っている。これは直ちにホンダのF1再参戦を意味するものではないが、2026年から導入される次世代PUレギュレーションに高い関心を示していることは間違いない。

 なぜなら、次世代PUには100%持続可能燃料が使用され、カーボンニュートラル化が進められるからだ。

 レッドブルは2026年からフォードと提携することを発表しており、ホンダが彼らと組むことはない。ただし、ホンダがHRCとしてのF1活動を2026年以降も認め、かつHRC製のPUを搭載しようというチームが出てきた場合、ホンダのF1への扉は再び開かれることになる。だから、浅木は勇退前に後輩たちにこう伝えている。

「ホンダのパワーユニットを搭載したいというチームが出てきたら、供給できるようきちんと準備しておけ」

 HRCのエンジニアたちはその日を待ち続けながら、今日もF1活動を続けている。

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