甲子園の風BACK NUMBER
涙の大阪桐蔭…西谷監督は“負け直後の円陣”で何を語った? エース前田悠伍が挙げた敗因と「打てないチーム」と思えないポテンシャル
posted2023/04/03 17:02
text by
間淳Jun Aida
photograph by
Nanae Suzuki
高校野球が終わったわけではない。それでも、何人もの選手が涙を拭っていた。勝って当たり前の重圧なのか、自分たちへの不甲斐なさなのか、涙腺をコントロールできなかった。
春連覇を狙った大阪桐蔭が5点差をひっくり返されて、報徳学園に敗れた。相手校の校歌を聞き、アルプスへの挨拶を済ませた直後、西谷浩一監督は立ち止まり選手を集めて円陣を組む。異例の光景だった。
「泣いている選手もいたので、強いチームになって、もう一度甲子園に帰ってきて今度は優勝しようと話しました。あの場所が一番伝わると思いました。終わりではなく、夏に向けたスタートなので」
「自分たちは打てないチーム」と話していたが
昨年のセンバツを制した選手たちが繰り返していた言葉がある。「自分たちは力がない」。DeNAにドラフト1位で指名された松尾汐恩捕手を擁していたものの、先輩たちと比べて力が劣っていると感じていた。
だが、昨年のチームは近江とのセンバツ決勝で4本のホームランを放つなど18得点。準々決勝から3試合連続で2ケタ得点を奪い、不戦勝を除く4試合で51得点を記録している。「力がない」という言葉が皮肉に聞こえるほどの得点力だった。
今年のチームも、選手たちが口をそろえる言葉がある。「自分たちは打てないチーム」。今大会は4試合で115打数27安打とチーム打率.235。長打はホームラン1本を含む6本だけだった。
たしかに歴代の大阪桐蔭打線と比較すると、現時点では迫力に欠けるかもしれない。ただ、ヒットだけが点を取る方法ではないと聖地で証明した。3回戦の能代松陽戦はスリーバントスクイズの1点を守り抜き、2安打で勝利。報徳学園との準決勝でも、相手の隙を逃さなかった。
両チーム無得点の3回。2つの四球と2つのワイルドピッチなどで2アウト二、三塁とチャンスをつくり、3番・徳丸快晴選手が三遊間を破るヒットを放つ。報徳学園のレフトはワンバウンドでホームへ送球。2アウトだったため、二塁ランナーが三塁を回っていてもおかしくない場面だが、大阪桐蔭の三塁コーチャー笹井知哉選手は打球スピードと相手の守備位置から、レフトが捕球する前に二塁ランナーの山田太成選手にストップをかけていた。
そつのない野球はしっかりと体現していた
さらに、四球と死球で1点を追加して、なおも2アウト満塁。6番・長澤元選手がライト前へ運ぶと、今度は笹井選手がコーチャーズボックスで両手を大きく回し、三塁ランナーに続いて二塁ランナーも生還した。7番・村本勇海選手もタイムリーを放ち、打者10人で一挙5得点。3本のシングルヒットで、ビッグイニングをつくった。