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侍ジャパンPRESSBACK NUMBER
チェコ監督「こっぴどく激しい試合をありがとう」…WBC通訳が胸を打たれた“グッドルーザーの言葉”とは「我々は夢を持って東京にやってきた」
text by
小島克典Katsunori Kojima
photograph byGetty Images
posted2023/03/30 17:43
オーストラリア代表のデーブ・ニルソン監督とチェコ代表のパベル・ハジム監督。両チームともWBCを盛り上げた「グッドルーザー」だった
東日本大震災から13年目の3月11日に行われた日本対チェコ戦では、岩手県陸前高田市出身の佐々木朗希からチェコが先制点を奪い、3回表まで1対0でリードする展開になりました。
中盤以降に侍ジャパンの猛攻を受け、2対10の大差で敗れたハジム監督は、試合を振り返って「(格下の我々を相手に)最後まで手を抜かずに野球をしてくれてありがとう」というニュアンスのコメントを発しました。
僕はとっさに「こっぴどく激しい試合をしてくれてありがとう」という訳を出しました。少年時代に被災した佐々木の背景を知りながら、そこには触れず爽やかに日本を称えたグッドルーザーのコメントを、ほんの少し強調して訳したのです。翌日の新聞やウェブメディアに「こっぴどい試合をありがとう」の文字がポジティブな文脈で表現されていた時は、ほっとしたと同時に、自分なりの手応えを感じました。
後日、ウィリー・エスカラへの死球のお詫びにと袋いっぱいのお菓子を持ってチェコの宿舎を訪れた佐々木の行動に感激し、「野球は戦争ではなく、紳士のスポーツだと実感した」「野球は世界を結ぶ」と語ったハジム監督。野球が持つポジティブな力や、スポーツの本質的な歓び……。チェコ代表は、そんなことを思い出させてくれる存在でした。
「真の勝者は野球界」という言葉が意味するもの
今大会は過去のWBCと比較して、海外メディアや外国人記者の数が圧倒的に増加しました。野球のグローバル化を肌で実感できた事象であり、コミュニケーション面で大会をサポートする通訳としては嬉しいかぎりでした。
準決勝、決勝で日本と大接戦を演じたメキシコ、アメリカの両監督は、口を揃えて「真の勝者は野球界」とコメントしました。WBCが今後さらに成長する大会となるためのキーのひとつは、野球というスポーツが「真にグローバル化できるかどうか」でしょう。サッカーのW杯のようにアフリカ大陸やイスラム圏からもWBCに参加する国が出てきたとき、野球界は新たなフェーズを迎えるのかもしれません。
WBCロスのなかでそんな未来を思い描きながら、6月のプラハ訪問の計画を立てはじめようと考えています。
<前編からつづく>
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