- #1
- #2
侍ジャパンPRESSBACK NUMBER
チェコ監督「こっぴどく激しい試合をありがとう」…WBC通訳が胸を打たれた“グッドルーザーの言葉”とは「我々は夢を持って東京にやってきた」
text by
小島克典Katsunori Kojima
photograph byGetty Images
posted2023/03/30 17:43
オーストラリア代表のデーブ・ニルソン監督とチェコ代表のパベル・ハジム監督。両チームともWBCを盛り上げた「グッドルーザー」だった
ナショナルチームの監督と医師を兼務するハジム監督が、記者会見で口にした印象的なフレーズがありました。
「我々はヨーロッパの小国だけど、大きな夢を持って東京にやってきたんだ」
長くヨーロッパの野球を牽引してきた強豪ドイツを筆頭に、欧州諸国の多くは、アメリカ軍に野球のルーツを持ちます。そんな中、1989年まで社会主義国家だったチェコ共和国は、キューバに野球のルーツを持っています。
1番バッターが1球目からマン振りしてくるオフェンス、27個のアウトを取るために初回から3球勝負、勝利のためには敬遠も辞さないディフェンス……。チェコの野球スタイルは、“世界最強”と謳われた90年代後半から00年代初頭のキューバ野球の躍動感を想起させました。
チェコに生まれた子供たちの多くは、サッカーかバレーボールかアイスホッケーを選ぶ環境下で育ちますが、今大会のチェコ代表の大活躍は同国内でも旋風を巻き起こしました。WBCの試合がはじめてテレビ中継され、東京での熱戦の模様は朝夕のニュースで大きく取り上げられました。
帰国したハジム監督は、国内メディアにひと通り対応したあと、現在は本業である「ベフンスカー神経科」の医院長として、3週間もの長期不在の穴埋めに精を出しています。国内のリーグ戦は今週末に開幕を迎え、6月には「プラハ・ベースボール・ウィーク」という国際大会も開催されます。
「こっぴどく激しい試合をありがとう」
僕たち通訳は、異なる言語と言語の間の「あわい」に存在します。
トップアスリートが瞬間的に発する言葉を、他の言語に瞬時に置き換えるとき、頼れるのは自らの選択(ワードチョイス)しかありません。通訳はいつも孤独で、注目度が高い試合の前後などは、選手ではない僕でさえ胃がキリキリします。
通訳の立場からWBCを振り返ると、侍ジャパンの素晴らしい戦いぶりに負けず劣らず、東京ドームで対戦した「グッドルーザー」たちの言葉が強く印象に残っていることに気付かされます。敗れてもなお誇らしげに前を向く彼らの言葉に、訳す側もつい力が入るのです。