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「日本とキューバが参加しない大会なんて…」日本はもともとWBCに乗り気ではなかった? 通訳が語る「真の野球世界一決定戦になるまで」

posted2023/03/30 17:42

 
「日本とキューバが参加しない大会なんて…」日本はもともとWBCに乗り気ではなかった? 通訳が語る「真の野球世界一決定戦になるまで」<Number Web> photograph by UPI/AFLO

日本の3度目の優勝で幕を閉じた2023年のWBC。4大会連続で通訳を務めた小島克典氏は、舞台裏からWBCの成熟を見つめてきた

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小島克典

小島克典Katsunori Kojima

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UPI/AFLO

日本がアメリカとの激闘を制し、3大会ぶり3度目の優勝を果たした2023年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)。野球通訳のプロフェッショナルとして4大会連続でWBCに携わった小島克典氏は、過去に類を見ない今大会の盛り上がりに、どんな感慨を抱いたのか。“WBC黎明期”の知られざるエピソードを交えながら、大会の成り立ちと変遷をNumberWebで繙いていく。(全2回の1回目/後編へ)

 2023年のWBC決勝戦。

 8回から登板したダルビッシュ有が、1点差に迫られながらも後続を打ち取った瞬間、「これはとんでもない最終回になるぞ!」と身震いしました。

 大谷翔平がクローザーとして9回のマウンドに上がれば、3人目の打者はメジャーでMVPを3度獲得したマイク・トラウト。日本のWBC優勝に必要な最後のピースが、野球史に永遠に刻まれるであろう最高の対戦で埋められる――そんな展開になっていたからです。

 そして迎えた、あのエンディング。

 通訳としてWBCを4大会連続でサポートしてきた僕も、今大会ほど興奮し、心動かされたことはありませんでした。いまは正直WBCロスですが(笑)、この機会に通訳の目線から見た「もうひとつのWBC」について、綴ってみたいと思います。

当初、日本はWBCへの参加に積極的ではなかった

 僕がはじめてWBCの構想を聞いたのは2005年7月、MLBのオールスターゲームが開催されたデトロイトでした。ホームラン競争の前にMLBとMLB選手会が記者会見を開き、野球のグローバル化を掲げた国際大会の概要を発表したのです。

 今となっては信じがたい話ですが、当時、分配金の不平等さに抵抗を示していた日本は、アメリカとの国交正常化前だったキューバと並んでWBCへの参加に積極的な姿勢を取っていませんでした。世界各国の国旗がずらり並んだ壇上に、日の丸がない光景を見ながら「日本とキューバが参加しない大会なんて、盛り上がるのかな?」と思ったことを覚えています(そして奇しくも、第1回WBCの決勝戦は日本対キューバでした)。

 2005年といえば、大阪近鉄バファローズに代わって東北楽天ゴールデンイーグルスが誕生した、あの年です。前年の11月までライブドアのGMとして球界参入を目指していた僕は、そのあと半年ほどバーンアウトのような精神状態でした。そんな折にWBC構想を聞き、脳裏をよぎったのは、MLBに先んじて「野球の世界一決定戦」のために尽力された山本英一郎さん(1997年に野球殿堂入り)の熱い想いでした。

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