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「藤井聡太竜王vs藤井聡太王将を見たいほどです」なぜ藤井将棋は“先手番で強すぎる”+羽生、渡辺将棋もスゴいのか…中村太地・新八段が語る 

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中村太地

中村太地Taichi Nakamura

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photograph by日本将棋連盟

posted2023/03/19 06:01

「藤井聡太竜王vs藤井聡太王将を見たいほどです」なぜ藤井将棋は“先手番で強すぎる”+羽生、渡辺将棋もスゴいのか…中村太地・新八段が語る<Number Web> photograph by 日本将棋連盟

羽生善治、藤井聡太、渡辺明。時代を築いた棋士はそれぞれの凄みを持つ

 3月5日に行われた棋王戦第3局でその連勝記録はストップ(※テレビ対局など未公開のものを含まないと「28連勝」を記録した)しました。ただファンの中には「これほどまで藤井王将が先手番で勝ち続けると、世間の人が“将棋って先手なら勝つ”と思ってしまうのでは」とおっしゃっていました。たしかにそれくらいに錯覚してしまうほどの強さですね。

 藤井王将のデビュー戦からの「29連勝」も将棋史に残る記録ですが、今回の先手番連勝記録にも戦慄を覚えました。例えば朝日杯将棋オープン準決勝・豊島将之九段戦は神がかり的な大逆転劇でした。そういった対局を見ていると……例えば「藤井聡太竜王vs藤井聡太王将」の対局を何番勝負かやっていただき、先手番が何局勝つのか確認したいほどです(笑)。

渡辺棋王の“先手番連勝阻止”に思い出すのは…

 冗談はさておき、連勝記録が止まった棋王戦第3局。これもまたとてつもない激闘でした。簡単に振り返ると、中盤で渡辺棋王が徐々にリードを奪って勝利に近づいた中、藤井五冠の粘り強く、嫌味をつける手によってじりじりと差を詰められていった。すると最終盤の秒読みの中で形勢が二転三転して、藤井五冠が勝つ詰みの手順が発生しました。その最後の「1六銀」という手があまりにも綺麗な、何か作ったかのような手だったんです。それを見た瞬間、以前に〈将棋は最後に羽生善治が勝利する競技である〉との表現を見たことがありますが、それにならえば〈将棋は最後に藤井聡太が勝つようにできている〉のではと思えてしまうくらいの展開でした。

 しかしその状況で相当疲労もあったのか、藤井五冠が詰み筋を逃しました。普段なら詰みを絶対に逃さないはずの場面でもそういったドラマが起こることに“やはり藤井五冠も人間だった”というインパクトもありましたし、藤井五冠の先手番の連勝記録を止めた渡辺棋王の底力にも驚きました。

 渡辺棋王もまた数々の修羅場を潜り抜け、追い込まれたときにこそ力を発揮してきました。棋王戦第3局で思い出したのは2008年度の竜王戦第4局のことです。渡辺竜王(当時)に対して羽生名人(同じく当時)が挑戦するシリーズは、勝者が初の永世竜王に輝くという歴史的シリーズでした。

 第1局から第3局まで羽生名人が3連勝を飾って渡辺竜王がカド番に追い込まれ、第4局も羽生名人が優勢に進めて絶体絶命だったのですが……最後の最後で形勢をひっくり返して逆転勝利を収めました。この一局について、ご自身のブログで〈何度も負けを覚悟した将棋なのに、なぜ自分が勝っているのかがわかりませんでした。改めて、将棋の深さを感じています〉と記された渡辺竜王ですが、そこから一気に4連勝して防衛に成功しています。そのギリギリを切り返したという意味では――藤井五冠は4月から始まる名人戦挑戦権も手に入れているだけに――渡辺棋王にとって1勝以上の価値を持つのでは? とも感じます。

将棋文化を継承する第一人者として

 3人の戦いを見ていて感じるのは、将棋文化を継承する第一人者としての立ち位置です。

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