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進取の将棋BACK NUMBER
「藤井聡太竜王vs藤井聡太王将を見たいほどです」なぜ藤井将棋は“先手番で強すぎる”+羽生、渡辺将棋もスゴいのか…中村太地・新八段が語る
posted2023/03/19 06:01
text by
中村太地Taichi Nakamura
photograph by
日本将棋連盟
藤井聡太王将に羽生善治九段が挑んだ王将戦は、藤井王将が4勝2敗で勝利し、同タイトルの初防衛に成功しました。ただこの対局を観た将棋ファンの方々ならご存じの通りですが――このシリーズ、とにかく名局・激闘続きでした。私も中継解説として第3局を見守りましたが、そんな両者の将棋の凄みについて、棋士として語っていければと思います。
羽生九段の「柔軟性と積極性」の凄みを再確認した
まずは羽生九段について。もともとスキがなくて完璧に強い方ですが、順位戦最終局で私が対局した際に再確認した凄みは「柔軟性と積極性」でした。まず前者で言えば「セオリーにないところの正解を取り上げる力」にとても長けている。皆さんも「え、羽生先生、こんなところでこの駒を使うんだ」と思われたことが多々あるかと思います。見ていて面白い将棋、ハッと気づかされるような手を指されることが多い。それに加えて積極性という意味では、基本的に駒が後ろに引かず、なるべく前へ前へ出ていくという特徴があります。
その果敢な姿勢がファンの心を捉えているとともに……今回の王将戦では、「藤井王将に対してぶつかっていきたい、勝ちをもぎ取りたい」という気持ちが前面に見えたのが、さらなる面白さだったのかなと感じます。
長年将棋界のトップに君臨した羽生九段は、これまで絶対王者として迎え撃つ構図の中で、相手の得意戦法に乗っていった上で、それでも相手を倒してしまう。私自身も計3回タイトル戦の盤勝負で対局して、これを味わうと心の平静を保つのが本当に大変でした(笑)。もともとオーラがある方なのですが、勝負将棋となった際にはさらに半端ではないものがある。以前に〈羽生九段と対局していると“気づいていない”状態であれば、自分の指し手が変わるかもしれない〉といったニュアンスのことを話した記憶がありますが、人間同士が対局する将棋という競技の特性において、その存在感はまさに稀有なものだと実感します。
藤井王将相手に完勝を飾った羽生将棋に衝撃
その中で今回の藤井王将との初タイトル戦では、挑戦者の立場から羽生九段が作戦、戦い場所を選択している印象を持ちました。勝利を収めた第2局、第4局ともに素晴らしい指し回しかつ、羽生九段に入念な準備があって、それがまさにドンピシャでハマりました。