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「鳥栖を変えてほしい」と請われた川井健太監督の“仮説と指導プラン”が独特!「ミーティングは短編映画のように…」大きかった山形での出会い 

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飯尾篤史

飯尾篤史Atsushi Iio

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posted2023/02/08 11:02

「鳥栖を変えてほしい」と請われた川井健太監督の“仮説と指導プラン”が独特!「ミーティングは短編映画のように…」大きかった山形での出会い<Number Web> photograph by Atsushi Iio

鳥栖の川井健太監督。41歳にしてJ1の舞台で采配を振るう指揮官のサッカー哲学やプランニングなどを聞いた

「いい意味で僕を裏切ってくれ」と

――川井監督はよく「仮説」という言葉を使われるので、良さを引き出すという点で僕も仮説を立ててみました。昨季のベースとなった前線の3人が相手最終ラインをピン留めして、GKを交えた8人で数的優位を築くビルドアップは、もともとの川井監督の「誰が出ても2対1を作りたい」「ボールとともに前に行きたい」という考えに、岩崎選手やパギ選手をはじめ、選手のストロングを掛け合わせて設計されたものなのではないか、と。

川井 おっしゃる通りで、正直に言いますと、去年はシーズン前に僕が考えていたものと、シーズンスタート時ではシステムが違いました。

――そうなんですね。

川井 なぜかと言うと、パギがいて、岩崎がいて、飯野(七聖)や宮代(大聖)、垣田(裕暉)がいて……となったとき、ああいう形になりましたね。僕はよく「いい意味で僕を裏切ってくれ」と言うんですけど、僕の基準を超えるものを去年のキャンプで彼らが表現してくれたので、そっちを取ろうと。ストロングを取ったということですよね。シーズンが進めばウイークもすごく見えてくるだろうということは分かっていましたが、それは他の人のストロングにもなっていく。そこのバランスを考えながら去年はやりました。あと、システムも含めていろいろやったんですけど、「決めない」ということもシーズン前に思っていました。

――決めない、とは?

川井 システムで言ったほうが早いですね。これ、というものを決めずにやったほうが、去年のチームはいいなと思ったので。おそらくリーグでは一番いろいろな形で戦ったと思います。でも、彼ら選手がパニックになったことは一度もないです。それは日々のトレーニングやミーティング、考え方を、システム論にはならない形でやっていったからです。

――印象に残っているゲームのひとつに、昨年4月のルヴァンカップのホームの京都戦(○3-0)があります。それまでシャドーだった菊地泰智選手を右ワイドに入れ、堀米勇輝選手を右のシャドーに入れて。京都のハイプレスをいなしながら右サイドで時間をつくって、ボランチの福田晃斗選手がペナルティエリアに飛び出して、2点に絡んだ。狙い通りだなと感じたんですけど、ああいうプレーも、「お前はここで時間を作るんだよ」と指示するのではなく、そういう配置とトレーニングで選手たちに意図を感じさせるというか。

川井 そうですね。でも、あの試合はたしかに面白かったですね。試合前のストーリーも、試合前日か、前々日に右ウイングで出る予定の選手がケガをしてしまって。飯野だったかな? そこで菊地を右ウイングにして。彼と堀米に言ったのは「出る予定だった選手の真似をする必要はない。ただ、ここは絶対にストロングになるから。ポジションはあってないようなものにしてほしい」という言い方をしました。

――実際に、ふたりは頻繁に入れ替わっていましたね。

川井 じゃあ、練習したのかと言うと、してないんです。でも、やれる自信が僕にはあった。決め事をあえて作らないことがいいほうに出た試合ですよね。

ミーティングを短編映画みたいな感じに

――試合前のストーリーということで言えば、選手たちから「ミーティングが面白い」という話も聞きました。格闘技の映像を見せたこともあったそうですね。それも、試合に向けたストーリー作りの一環でしょうか。

川井 まず、究極はミーティングをしたくないです(笑)。でも、やっぱり相手の情報だったりを共有したほうが勝つ確率は上がるので、仕方なく。じゃあ、何をするか。面白いことをしたいとはまったく思ってなくて。人間って忘れる生き物なので、選手にインパクトを与えたい。例えば、「最初から強烈に行きたいよね」というゲームなら、フットボールの映像を見せてもいいんですけど、今の時代、スマートフォンでいろいろな映像が見られるので、見慣れていて刺激はないだろうと。だから違うもので刺激を与えたいなと思って、格闘技だったり、ツイッターのコメントを見せたり。やっぱり面白くないですよね、サッカーの話をずっとされても(笑)。僕の中ではちょっとした短編映画みたいな感じにできるといいなと、いつも思っています。

――ミーティングを短編映画のように。

川井 きれいだと「あっ!」と思うし、文字ばかりだったら「あぁ……」と思うし。話し方にも気をつけています。気持ち良く試合をしてもらいたいので。そういう意味では、ミーティングはもしかしたら他のクラブとはちょっと変わっているかもしれないですね。

【次ページ】 山形時代、クラモフスキー監督から学んだこと

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