箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
「田澤(廉)も泣いていて…」駒澤大“最後の箱根を走れなかった主将”神戸駿介が語る、“強い後輩“への思い「山野(力)だけお礼のLINEがないんです」
posted2023/01/22 11:02
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph by
Wataru Sato
9区・山野に叫んだ「絶対行けるから!」
迎えた新年、駒澤大の選手は箱根駅伝で躍動した。
1区に抜擢された白鳥は区間15位と苦しんだが、そこから2区の田澤が立て直し、3区では4年生で唯一の出場を果たした小林歩が区間2位の走りでチーム順位を3位にまで押し上げた。5区で区間4位と好走した1年生鈴木芽吹の活躍もあり、往路を終えた時点で3位。首位創価大との差は2分21秒だった。
そして、復路では6区の花崎悠紀(3年)が区間1位と絶好のスタートを切り、逆襲のシナリオが整う。神戸は当日、9区の途中にある給水係に回っていた。
「その日は石川と一緒に起きて、石川の体調に異変がないことを確認してから寮を出ました。9区に襷がつながったときには1分29秒差で、監督はここで分があると思っていたみたいですけど、創価の石津(佳晃・4年)選手が強くて、徐々に引き離されていたんですね。だから山野(力・2年)も焦っていて、とにかく『相手は後半落ちてくるからな』ってめっちゃ言いました。『絶対行けるから』って、声を振り絞りましたね」
今の自分にできることは、後輩への必死の声かけだった。チームが勝つために、神戸は給水ボトルを手にしてわずかな距離だが全力で駆けた。そして、遠ざかっていく後輩の背中を見送ると、すぐさま電車に乗ってゴールの大手町を目指した。
僕の中では、一番苦しんだから優勝できたと思ってます
神戸が電車で移動中に、レースは信じられない展開を見せる。10区の石川に襷が渡った時点で首位創価大との差は3分19秒と絶望的なくらいに広がっていたが、創価大のアンカーである小野寺勇樹(3年)が区間20位の大ブレーキを起こし、残り2km余りのところでついに逆転する。石川は区間1位の力走だった。
コロナ禍で観客のいない大手町。笑顔でゴールに飛びこんでくる石川を全身で受け止めたのが神戸だった。神戸は顔をクシャクシャにして、チームの13年振りとなる優勝を喜んだ。走れなかった主将が、走った選手以上に喜んでいる姿を見て、こちらも胸が熱くなった。