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「若い指導者に“無報酬の休日返上”は無理」春高バレー制覇・駿台学園に学ぶ“部活アップデート” 緻密なデータ戦術だけじゃない強さの秘密
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byJIJI PRESS
posted2023/01/10 11:00
6年ぶりに春高バレーを制し、選手たちに胴上げされる駿台学園・梅川監督。緻密なデータバレーや新しい取り組みで常にチームをアップデートしてきた
高校生ながら“プロの世界”に重ねる。熾烈なチーム内競争だけではなく、さまざまな取り組みにも意識の高さをのぞかせる。
高校3年間は勝って終わりではなく、大学やさらにその先につながるベースをつくる時期。そう考える梅川監督は技術のみならず、アスリートたるべき身体を養うべく、春高初優勝した2017年の春高東京予選直後から栄養講習を、決勝で東山に敗れた2020年からはトレーニングコーチを招聘した。さらに今季「練習で多く取り入れた」というボールコントロールを重視する技術指導には、Vリーグの東京グレートベアーズでコーチを務めるマルキーニョス氏の指導を仰いだ。
「専門の方々がいるんだから、全部自分が教えなくていい。同じことを言っているのだとしても、違う人が言えば生徒にスッと入っていくこともあるので、いろんな人からいろんなことを習って、それぞれ必要なものは残せばいいし、いらないものは出せばいいと思うんです」
身体が変われば意識も変わる。春高期間中のホテルでも選手の成長を実感するシーンがあった。
「食事はビュッフェスタイルなんですが、選手同士で『これは今食べちゃダメ』『この時間はこれを摂らないと』と言いながら、最後にエネルギーを残すためには何をどのタイミングで食べればいいか考えて、食べたいものも我慢する。プロ選手みたいですよね。コンビニでおにぎりを選ぶ時も具材まで意識するようになったり、そういう1つ1つが最後の結果につながり、勝利を呼び込んでくれたんだと思います」
自チームに関わる人たちばかりでなく、日頃から多くの指導者と情報を共有し、いいと思うものは選手に還元する。それだけでなく、梅川監督は常にオープンなスタンスをとっており、育成年代の選手たちに何が必要か、必要な情報はシェアすればいいと考えて実践している。
「今の男子バレー界は僕より年下の指導者も増えて、みんな向上心がある。『このプレー、どうしたらいいと思いますか?』とか聞かれることも増えました。僕は聞かれたら何でも答えます。うちはこういう練習をしている、と伝えるし、違うチームの選手を指導することもあります。自分のチームを強くすることばかりでなく、バレーボールがよくなるためにどうしようか、と考えている指導者が増えているのは、すごくいいことだと思いますね」
練習着にスポンサー、その意図は?
さらにもう1つ、今季から駿台学園は新たなチャレンジにも打って出た。男子バレーボール部としてスポンサーを募り、賛同してくれた企業名を入れた練習用Tシャツを製作。それを春高東京予選やインターハイで選手が着用した。
春高ではコートでのウォーミングアップもユニフォームで行うため、お披露目の機会はなかったが、決勝戦では梅川監督と同校OBで高校3冠時のリベロでもあった土岐大陽コーチが着用した黒のポロシャツには両肩や腕・胸・背中に5つのスポンサー名がプリントされていた。駿台学園に限らず、スポンサー名を入れたシャツなどを着用するチームは増え始めたが、春高決勝での着用は史上初のこと。事前に規定を念入りに確認したうえで満を持しての披露となった。
これまでの高校バレーボール界、部活動という枠ではなかった取り組み。応援してくれる方々からの寄付ではなく、スポンサーを獲得する。その理由は明確だ。
「土曜の練習時は体育館が使えないので、外の体育館を借りているのですが、体育館使用料は年間200~300万円。その金額を保護者に負担していただいているのが現状です。今はありがたく支援していただいていますが、いつ何時、ちょっと難しいです、となるかはわからないし、そうなっても当然のこと。善意に頼る限界があります。ならば選手たちが活動していくために必要なお金を還元するために、スポンサーを募ろう、と考えました」
さらに、その危機感は選手だけでなく指導者の未来にも向けられる。