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「若い指導者に“無報酬の休日返上”は無理」春高バレー制覇・駿台学園に学ぶ“部活アップデート” 緻密なデータ戦術だけじゃない強さの秘密
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byJIJI PRESS
posted2023/01/10 11:00
6年ぶりに春高バレーを制し、選手たちに胴上げされる駿台学園・梅川監督。緻密なデータバレーや新しい取り組みで常にチームをアップデートしてきた
同じ敷地内にあり、同じ体育館で練習する付属中学は数多くの全国制覇を遂げてきた強豪。そこから高校に進学してくる選手はもちろん、東京都内に留まらず全国各地から「駿台で日本一になりたい」と選手が集まってくる。他校からは羨望と嫉妬を含め「駿台は“人”がいるから、勝って当然」と見られることも多い。
確かにタレントは揃っている。しかも集まった選手たちの能力も高い。だから高い要求に応えられるのも当然だと思われるかもしれないが、寄せ集めで勝てるほどバレーボールは簡単なスポーツではない。
エリート集団が肩書きだけで終わることなく、結果を残す背景には、常に高い質が求められる練習がある。駿台学園の練習はコートで見せる華麗なバレーとは異なり、あえて表すなら「地味」で「地道」。
試合中は梅川監督が細かに指示を出すが、新チームになるタイミングで「どんなバレーがしたいか」は選手が設定し、その実現に向けた練習を考える。高身長の選手が揃った昨季と比べ、今季はサイズが小さい選手が多かったこともあり、選手たちは「相手の攻撃をブロックとレシーブで防ぎ、そこから確実に自チームの攻撃に持って行く」スタイルを選択した。
そのためにまず求められるのは1つ1つのプレーの精度。2人1組の対人レシーブでは、制限時間とボールを打つ強度を設定し、絶対に落とさないようにボールをコントロールする技術を徹底的に磨いた。それを全員で一斉に行い、どこか1組でもボールを落としたらペナルティも課す。最初は3割程度の力ですら1分間続けるのも至難の業だった、と梅川監督は言う。
「ただスパイクを決めるのは楽ですけど、相手に拾わせるように打て、と言われると実はすごく難しい。しかも特定の選手だけができればいいというのではなく、全員に同じことを求めるので、選手は大変だったと思います」
なぜそこまで細かく設定するかと言えば、理由は簡単。練習から精度にこだわらなければ試合で発揮することはできないから。U-18日本代表ではリベロを務め、鎮西との決勝戦でも好レシーブを何本も見せたアウトサイドヒッターの亀岡聖成(2年)も証言する。
「2段トスもアンテナに寄せすぎるとスパイカーの打つコースが狭まれるので位置を設定するし、パスもただ返すのではなく、セッターをわざと動かして相手ブロッカーをつかせないようにする時はどの位置、高さにするか。細かいところにこだわって、数字に表れないプレーも大事に、いかに自分たちがいい状態でバレーができるか、というのは常に意識して取り組んできました」
まるで「プロの世界」のような競争
日々の練習ではスパイク、レシーブなど1つ1つの技術で分けた練習ではなく、3対3、5対5などゲーム形式の練習でボールに触る回数を増やす。そうなれば必然的に、どのポジション、どんな体格の選手でもレシーブをして、トスを上げ、攻撃参加しなければならない。「やればやるほど成果は顕著に現れ、日々の練習から常に緊張感があった」と言うのはリベロの布台聖(3年)だ。
「選手層が厚くて、誰が出ても同じバレーができるということは、いつでも外されるということ。実際自分もキャプテンを任された時に、自分よりも周りに目が向いてしまってやるべきプレーができなくなった時には下級生にスタメンを取られたこともあります。そういう経験を多くして、みんなが危機感を持ちながら練習しているから、チームのレベルも上がる。他のチームでは経験できない、プロの世界のような必死さがありました」