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ワインとシエスタとフットボールとBACK NUMBER
「目覚ましい変革は戦術とVAR判定、GKの進化、その結果…」トルシエも絶賛するカタールW杯が史上最高の大会になった理由
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph byGetty Images
posted2022/12/22 17:01
まさしく大団円となったカタールW杯を、運営面も含めトルシエは絶賛した
——今回顕著だった傾向は、今後の国際試合にも影響を与えるでしょうが、クラブに対してもそれは同じでしょうか。
トルシエ 国際試合に関してはそうで、W杯は世界の誰もが注目して見ている。世界中のあらゆるジャーナリストやテレビ局がW杯を伝える。最も大きなインパクトを世界に与える大会だ。
しかしクラブは1年以上前からこの戦略を採用している。VARも監督のコーチングも5人交代制もそうだ。W杯は4年に1度の大会で、大会ごとにFIFAは総括をおこなっているが、あらたなプレーの哲学が生まれたかどうかの判断もそこで下される。変化が起こったことを公式に認める機会がW杯であるといえる。FIFAのエキスパートたちが大会後の公式レポートで、進化や変化に関するFIFAとしての公式な判断を下す。W杯はサッカーの進化を4年に1度ずつ総括する大会であり、そこにW杯の意味があると理解すべきだ。
アジア・アフリカ勢の躍進と課題
——もうひとつ言えるのは、今大会ではアジア勢やアフリカ勢の躍進がこれまでになく顕著でした。
トルシエ その答えはウイとノンだ。すでに2002年には韓国がベスト4に進み、セネガルがベスト8に進出した。逆にディフェンディングチャンピオンのフランスが、グループステージで敗退した。ただW杯は特別な機会で、大会でのパフォーマンスがモロッコは世界のトップ4だと断言する基準にならない。
その一方でモロッコや日本はもちろんのこと、カタールを除くアジアのすべてのチームが少なくとも1勝をあげた。アフリカ勢も1勝をあげた。つまり1試合ならば、それぞれが計算ずくで試合に臨む。そこでは何が起こってもおかしくはない。
忘れてならないのはアジア・アフリカ勢の活躍のほとんどが、グループステージでの出来事だったことだ。2002年の韓国と少し状況が似ていたモロッコを別にすれば、すべての勝利はグループステージで得られた。そしてリーグ戦の間にはアクシデントがしばしば発生する。アルゼンチンの敗北もアクシデントであったし、ドイツが消えたのもアクシデントだった。
ただしアクシデントではあっても、日本やサウジアラビアのパフォーマンスを貶めるものではない。日本はドイツばかりかスペインも破ったが、だからといって日本が世界のトップ10に入るわけではない。日本の適切な順位は20位と30位の間だろう。それはモロッコも同じだ。だから小国の進化はあったにせよ、大国の地位がそれで揺らぐわけではなく、彼らは常に世界のトップに位置し続けている。
今大会に関して言えるのは、小国の躍進があり大国とのギャップは小さくなった。ただそれでも埋めきれない差が両者にはまだあるということだ。