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「メッシがトロフィーを掲げるのは、私にとっても喜びだった」フランス人のトルシエもW杯決勝を絶賛「だがバロンドールはエムバペだ」
posted2022/12/22 17:00
text by
田村修一Shuichi Tamura
photograph by
Takuya Sugiyama
フランスとアルゼンチンの間で争われたカタールワールドカップ決勝は、史上稀に見る壮絶な戦いとなった。後半途中まではフランスになす術なくアルゼンチンの一方的な展開。だがそこから先は……。どちらが勝ってもおかしくない試合を制したのは、PK戦でフランスをくだしたアルゼンチンだった。
この劇的な試合を目の当たりにしたフィリップ・トルシエに話を聞いたのは、試合の興奮がようやく落ち着いた翌日の午後だった。イタリア(1934年、38年)、ブラジル(1958年、62年)に次ぐワールドカップ連覇を逃したフランスの決勝を、トルシエはどう見たのか。そして大会全体を彼はどう総括するのか。
トルシエインタビューを前後2回に分けて掲載する。まずはその前編から。(全2回の1回目/#2へ)
驚くほどにスペクタクルな試合
——昨日(アルゼンチン対フランス)の試合展開は誰も予想しなかったと思いますが、あなたはどう分析しますか。
トルシエ W杯の決勝には普段とは異なる基準も考慮される。W杯を構成するすべての要素に対する回答だ。大会の目標は達成されたか、試合はどうだったか——サッカーの試合として展開は満足のいくものだったか、レフリーの判定は、選手それぞれの戦いぶりは、彼らはミスを犯さなかったか……。サッカーに関するすべての要素を混合したものだ。それらがひとつの試合で焦点を結ぶ。
だから様々な反応があり、昨日目にしたのはそれぞれのチームの戦術的な反応だった。ディディエ・デシャンがコーチングを実践したのは初めてのことだ(註:トルシエは以前から、デシャンの選手交代は3人交代制のときと同じで疲労や怪我によるものだけで、一度に2~3人を代えて戦術を変更するようなやり方はしないと指摘していた)。他に選択肢がなかったからだ。フランスを決勝まで導いた彼のメソッドは、選手のグループに信頼を寄せるというものだが、昨日は状況が差し迫っており、迅速なコーチングの実践に踏み切った。
ハーフタイムの前に彼は修正を施し、よりプロフォンダー(裏のスペースを狙う攻撃)を用いてアグレッシブに素早くボールを前に運ぶことを試みた。さらに彼は、この代表のシンボルともいえる(アントワン・)グリーズマンのような主軸の交代も躊躇わなかった。
くりかえすが昨日の決勝はサッカーのすべての要素を揃えており、試合を劇的にするあらゆるものが揃っていた。驚くほどにスペクタクルな試合であり、私にとっても忘れられない1日となった。まず試合前の閉会セレモニーが素晴らしかった。それから国歌が流れ、満員の観衆が斉唱してそれに応える。この日はカタールにとってもナショナルデーで、さまざまな国賓たちが顔を揃えていた。それらが特別な雰囲気を醸し出し、選手もそれを感じ取って決意を新たにしていた。