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「目覚ましい変革は戦術とVAR判定、GKの進化、その結果…」トルシエも絶賛するカタールW杯が史上最高の大会になった理由

posted2022/12/22 17:01

 
「目覚ましい変革は戦術とVAR判定、GKの進化、その結果…」トルシエも絶賛するカタールW杯が史上最高の大会になった理由<Number Web> photograph by Getty Images

まさしく大団円となったカタールW杯を、運営面も含めトルシエは絶賛した

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田村修一

田村修一Shuichi Tamura

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 フィリップ・トルシエインタビューの後編である。

 トルシエは家族とともにワールドカップ準決勝・決勝の時期をカタールで過ごした。ドーハを訪れるのはカタール代表監督を解任された2004年以来だが、監督の任を解かれた後もカタール協会や王室との関係は続いていた。

 久々に訪れたカタールに彼は何を感じたのか。そして大会そのものにはどんな印象を持ったのか。「史上最高の大会」とジャンニ・インファンティーノFIFA会長が自画自賛する大会の実態をトルシエが語った。(全2回の2回目/#1へ)

カタールに見た新しいW杯の姿

——W杯全般を振り返ったとき、今大会をあなたはどう見ていますか。

トルシエ 私がこれまで認識していたサッカーとは、少々異なるサッカーがこの大会では展開された。よりオープンで攻撃的なサッカーだ。その理由としては監督のコーチングが変わったことがまずある。5人の交代枠により試合中のシステム変更が容易になった。(ディディエ・)デシャンはハーフタイム直前に選手をふたり代え、森保(一)も前後半で選手を代えて戦い方を変えた。多くの監督が選手を2~3人代えることでチームに変更を加えた。そこに見えるのはプレーの新しい哲学だ。4バックから3バックのような異なるシステムへの変更など、チームの構造から変えるのは監督が自らのプロジェクトを修正するうえでもの凄く重要な戦術的な革新だ。

 それからプレーが攻撃的になり、強固で厳格な守備は見られなくなった。低い位置に守備ブロックを敷く。しかしディフェンダーがフィジカルコンタクトを積極的に仕掛けないので、代わりに目立ったのが優れたGKたちだった。彼らはチームを守る者としての存在感を存分に示した。PKを阻止する場面も目立った。

 PKが多かったのもこの大会の特徴だった。VARの導入で微細な反則——肉眼では気づきにくいハンドや妨害行為をVARが明らかにし、小さなディテールからPKが生まれた。その結果としてPKは、試合の均衡を崩す大きな要因となった。決勝戦だけでも、アルゼンチンの先制点はPKであったし、フランスの1点目と3点目もPKによる得点だった。そして試合の勝者自体も、PKの蹴りあいで決まった。W杯そのものが、PKにより雌雄を決した大会ともいえる。ただしVARにはいろいろな問題もあった。

 この大会で目覚ましい変革を遂げたのは監督のコーチングと、VARによる判定の精密化、そしてGKの進化だ。その結果としてさまざまなことが起こった。VARのおかげでPKを得る。PKから得点を決める。得点したからチームに変更を加える。その連鎖が起こったのが今回のW杯だった。

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