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「メッシがトロフィーを掲げるのは、私にとっても喜びだった」フランス人のトルシエもW杯決勝を絶賛「だがバロンドールはエムバペだ」 

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田村修一

田村修一Shuichi Tamura

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2022/12/22 17:00

「メッシがトロフィーを掲げるのは、私にとっても喜びだった」フランス人のトルシエもW杯決勝を絶賛「だがバロンドールはエムバペだ」<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

「忘れられない1日になった」と、ドーハで観戦したトルシエは決勝戦と大会を高く評価した

 だが、幸運なことに、デシャンには経験があった。デシャンは敗戦を嫌い、選手が仕事をまっとうしないことを嫌う。試合前のデシャンは選手を擁護する父親のようだったが、ここに至って彼はその姿をかなぐり捨てた。

 興味深いのは、それによりフランスが新たな次元に突入したことだ。後半のフランスは、2026年へと繋がるチームであることがはっきりと見られた。確固としたキャラクターを持った若いチームで、素晴らしいW杯を実現したチームだ。これほど素晴らしい後半の戦いを実現するとは誰も思わなかったが、同点に追いついたフランスは自信とエネルギーを取り戻した。

 延長に入ってからは新たな均衡が生まれ、アルゼンチンが3点目を決めてからもフランスは再び反撃した。それにはエムバペの力が大きかった。前半のエムバペは完全に消えていた。つまり転換点を迎える契機が必要で、デシャンのコーチングがチームを覚醒させた。彼は戦略を修正し、そしてエムバペは、チームに光を与える選手であることを証明した。決勝で3得点を決め、そのうちの2点はPKであったことは、エムバペという選手のキャラクターの力であり、卓越していることを彼は見せつけた。

——より具体的には、後半に入ってからの(キングスレー・)コマンと(エドゥアルド・)カマビンガの投入が、フランスの攻撃のリズムを活性化させたのではないですか。

トルシエ (マルクス・)テュラムと(ランダル・)コロムアニを前半のうちに入れて、エムバペは左にそのまま残り、テュラムが中央、コロムアニが右にポジションを取ってアグレッシブに動いた。彼らにはスピードもあった。最初のPKはテュラムが誘発したことを忘れてはならない。2点目はコマンがメッシからボールを奪ったところから始まった。テュラムとのワンツーで抜け出したエムバペが見事なボレーシュートを決めた。

 交代選手たちが変化と新たなエネルギーをもたらし、チームに自信を与えた。ハーフタイム前のふたりの交代が選手たちに自信を取り戻させ、自分の価値に見合ったプレーをするようになった。

エムバペとメッシのインパクト

——この試合の大きな焦点のひとつがエムバペ対メッシでした。個の力のチームへの貢献という点では、ふたりの間に大きな違いはありませんでした。

トルシエ ふたりがチームに与えたインパクトに差はなかった。しかしふたりのプレースタイルは異なり、効率の面ではどちらも高かった。メッシはチームの攻撃の軸であり、リズムを与える選手だ。他の選手を動かして攻撃を形作るのに対し、エムバペはフィニッシャーとしての要素が強い。それぞれが自分の特性を生かしてチームに光をもたらしている。

【次ページ】 バロンドールの行方は?

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