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羽生結弦、2年前の告白「同じものをやるって、めちゃめちゃ怖い」 それでもなぜ彼は、アイスショーで“過去の名プログラム”を演じ続けるのか?
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2022/12/15 11:00
2020年の四大陸選手権、当初予定していなかったSP『バラード第1番』を使用した羽生結弦の演技
「プロローグ」は、作品を語り継ぐ時間でもある
試合を終えて羽生はこうも語っている。
「フィギュアスケートって、やっぱり毎年毎年新しいものをやったり、(同じプログラムを)やっても2年くらいじゃないですか。ほんとうにそれがすべて真理なのかなと思っていて。語り継がれるものというのは、何回も何回もやるじゃないですか。バレエにしても、オペラにしても、何回もやりますよね。自分もそういう道に行ってもいいんじゃないかな、そういうことを考えます」
バレエなどは同じ作品が長年にわたり、上演されてきた。同じ作品であっても、人々は何回も観劇に訪れる。そのときの演じ手が異なる場合があれば同じ場合もある。同じ演じ手の同じ作品であっても、表現されるものは同じではない。異なる表現であったり、より深化した表現がなされたりするのを楽しみに劇場を訪れる。
フィギュアスケートでもそれが成り立つのではないか、と羽生は提議していた。四大陸選手権は、ある意味、その実践の1つでもあった。
「プロローグ」でも、これまでの数々のプログラムを披露した。公演ごとに演じた作品に多少の異なりはあっても、どの回でも最初には『SEIMEI』があったが、「プロローグ」もまた、数々のプログラムが語り継がれていくための、伝えられていくための時間であるように思えた。
作品を残していくという試みは、それが新作であれ、これまでの作であれ、現状維持ではいられない意欲と精神とともにある。フィギュアスケートにおけるプログラムの継承や意義をあらためて問い直す意味合いも持つ試みに取り組む羽生は、その点でもやはり挑戦者であることを伝えたのが「プロローグ」であった。
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