フィギュアスケートPRESSBACK NUMBER
「昌磨のマジックを見せて!」世界王者・宇野昌磨を奮起させたランビエル・コーチの激励…300点超えに「スーパーエキサイティング」
posted2022/12/14 17:21
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph by
Asami Enomoto
世界王者として迎える今シーズン。2つ目の世界タイトルであるGPファイナルに臨んだ宇野昌磨は、イタリア・トリノでの公式練習で穏やかな笑顔を見せていた。
「今季は、何のためにスケートをやるのかが、大きく変わってきているんです。僕の歳って(5輪メダルと世界王者という)区切り的にも、今年辞めてもおかしくない。でも僕が続けているのは、何か成績を残したいとかではなくて、もっと成長できる余地があるから。そしてさらに大きな要因は、周りのサポートしてくださる方々が喜んでくれる、というのがあるからなんです」
自らの立ち位置を、改めて確認する。ステファン・ランビエルコーチやサポートするメンバー達と、時に冗談を言って笑いながら練習を楽しむ姿は、3週間前に「イラついている」とこぼしていたNHK杯とはまるで別人だった。何があったのかーー。実は、NHK杯後、ちょっとした出来事があった。
昌磨のマジックをもっと見せて欲しい
NHK杯での不調は、スケート靴に起因していた。昨季から使い慣れた靴だったにもかかわらず、小さな違和感に敏感になってはブレードを付け替え、試行錯誤していたのだ。試合直前にランビエルコーチからの「完璧は目指すものではなく、1つ1つやっていった先にあるもの」という言葉で落ち着きを取り戻し、本番は良い心の状態で臨み、優勝。しかしこの勝利を、師弟は違う視点で捉えた。
ランビエルコーチは、練習態度を振り返り、GPファイナルに向けてこう諭した。
「NHK杯のあと、『練習の様子は残念だった。昌磨のマジックをもっと見せてほしい』と言いました」
一方、宇野はこう感じていた。
「ステファンから『昨季のほうが、より高みを目指して練習していた』と言われて、僕は1日たりとも手を抜いた覚えはなかったので、正直、すごく悲しかったです。NHK杯の前にイライラしていたのは、自分がもっと上を目指しているからこそ。試合は『やってきたことをやるしかない』という良いマインドで出来た、と僕は思っていました」
まるで「勉強しなさい」という母親と「やってるよ」と言い張る息子のような会話だが、信頼し合う師弟でも、掛け違うことはある。宇野は落ち着いて自問自答した。