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ソフトバンク「ドラフト上位が大成しない問題」…“新コーチ”斉藤和巳はどう見る? ミーティングで投手陣に授けた金言「ラクするのは簡単」 

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田尻耕太郎

田尻耕太郎Kotaro Tajiri

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photograph byJIJI PRESS

posted2022/12/15 11:04

ソフトバンク「ドラフト上位が大成しない問題」…“新コーチ”斉藤和巳はどう見る? ミーティングで投手陣に授けた金言「ラクするのは簡単」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

近年、ソフトバンクのドラフト上位選手が伸び悩んでいる。一軍投手コーチに就任する斉藤和巳はどう見るのか?

忘れられない“現役時代の一コマ”

 たしかに今思い出しても、斉藤の現役時代の姿勢や取り組みは他の選手と一線を画していた。まず熱量が違った。マウンドで表す気迫もそうだったが、1つ憶えているシーンがある。もう斉藤がエースになった頃だったか、その後のリハビリの時期だったか……。

 かつてファームの本拠地だった雁の巣球場で二軍戦をたまたまバックネット裏の諸室で一緒に観戦するという機会に恵まれた。試合中、若手投手が送りバントを処理して打者走者をアウトにした、何気ない基本的なプレーがあった。その瞬間、グラウンドを見つめる斉藤の顔がパッと険しくなり、怒気を含んだ口調でこう言った。

「もっと早よ打球にチャージせんかい。慎重にやって、捕って投げてアウトにするのは当たり前。全力で捕りに行って、多少無理な体勢だったとしても正確な送球ができてアウトにする。それを出来るのがプロ。普段から意識しとかなアカンのや」

 その時、同じ部屋には複数の若手投手もいた。張り詰めた空気に、彼らも思わず背筋を伸ばしていた。

 こんな拘りを持つ投手は、最近めっきり減ってきたように思う。昨今の球界はテクノロジーの進化によって、パフォーマンスの可視化や数値化が活用されるようになった。特に投手は影響を大きく受け、その成果もあり150キロ台のストレートはもはや珍しくなくなった。いまや「大台」といえば160キロ超の時代に突入しているほどだ。

思い出される「斉藤和巳の覇気」

 “いいボール”を投げることは間違いなく魅力的だ。とはいえ、それだけでいいのか。地道なアプローチ、数値化されにくい投手としての覇気やふるまいが置き去りにされているように思えてならない。

 たとえば、現役時代の斉藤で印象的だったのがキャンプ中のブルペンだ。「次、ラスト」。その最後の1球を普通の投手ならば気持ちよく終わらせたいと考える。思った通りに決まらなければ「もういっちょ」の声が飛ぶ。だが、斉藤からは“おかわり”の声を聞いたことがなかった。

「試合に『やり直し』はないやろ。王監督も『2度とない、この1球』っていつも言っているんやから」

 試合のマウンド以外でも常に立ち振る舞いを意識する。覇気や闘争心といった類のオーラはそのようなところから生まれていた。

【次ページ】 ミーティングで言ったこと

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