ミーティングで言ったこと

　今後、12球団でも特に先進的な取り組みを行うソフトバンクの投手陣に、斉藤の「エース道」のエキスが加わることでどのような化学変化が起きるだろうか。

　この秋、斉藤はコーチ就任初仕事としてキャンプ前日に投手陣を集めたミーティングではこんな話をしたという。

「投げるのがピッチャーの仕事だけど、投げるためにはやらないといけないことがたくさんある。それに対してどこまで向き合っているか、時間を費やしているのか。ラクするのは簡単。だけどラクをしたところで自分にとって何のプラスもない。結局マウンドでは自分で、自分を助けなアカンから」

　だから、トレーニング1つでも「同じやるなら、最後まで出し切ろうや」と背中を押した。最後まで歯を食いしばること。それを習慣づけたいのだと話していた。

「長いシーズン、ずっと調子がいいわけやない。調子が悪い時に踏ん張れるかが一番大切なんやから」

　斉藤が絶対エースになれた理由はそこにあった。

「こういう話をすると精神論や根性論って今の時代はすぐ言われる。でも、技術だけでは補えへんことはあるし、技術をつけるならばそれなりの練習量も絶対いる。選手たちも分かっている部分ではある。あとは自分を律して追い込めるか。そうすることで、自分の未来は変わっていくはずなんよ」

　だが、斉藤はこういった類の話を怖い顔をして押し付けるのではなく、関西弁のユーモアを交えて若い選手たちに落とし込んでいく姿がなかなか絶妙なのだ。

「そこはまあ、時代に合わせてね（笑）。汲み取ってもらいやすいように、アプローチの仕方を考えていかんとね」

「コーチが腕組みして見てるだけじゃ無理」

　ソフトバンクは今季で2年連続の「無冠」。ソフトバンクが2シーズン続けてリーグ優勝あるいは日本一を達成できなかったのは12～13年以来だった。

　化学変化を起こして新時代の投手王国確立、そして王座奪還へ――。

「今年はオリックスの若手投手がクローズアップされて日本一にもなったよね。ポテンシャルはうちの投手陣も負けてない。その能力を活かすために、スタッフ含めみんなで向き合っていかないといけない。ただ、それが大変。人数が多くなればなるほどね。コーチが腕組みして見てるだけじゃ無理。声を出して、近寄って、体力が続く限り頑張るよ。初めてのことやから失敗するかもしれん。そしたら1人で部屋に帰ってヘコむよ。で、また切り替えて次の日や。それしかないやろ」

　そう言って静かに微笑んだが、眼光は鋭かった。

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