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やめるとなったら、なぜ勝てる? ずば抜けた速さで今季最終戦に勝利したスズキが、ついにMotoGPから撤退する理由とは
posted2022/11/10 17:00
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph by
Satoshi Endo
MotoGPに参戦する日本メーカーの一つ、スズキが今季を最後にグランプリから撤退する。そのラストランとなった最終戦バレンシアGPで、エースのアレックス・リンスが優勝した。
リンスは2017年にスズキ入りして6年目のシーズン。2015年にグランプリ復帰を果たしたスズキとともに成長し、スズキを引き上げてきた立役者で、バレンシアでは予選5番手からホールショットを奪うと、後続を寄せ付けず、27周のレースで真っ先にチェッカーを受けた。
この大会は、総合首位のフランチェスコ・バニャイアと、23点差で追うファビオ・クアルタラロのチャンピオン争いとなるレースだった。クアルタラロの逆転のシナリオは、クアルタラロが優勝して、バニャイアが15位以下というもの。レースは何が起きるか分からないとはいえ、今季7勝を挙げて圧倒的リードで最終戦を迎えたバニャイアのタイトル獲得を疑う者はほとんどいなかったのではないだろうか。
フタを開けてみれば、必勝を義務づけられたクアルタラロは4位に終わる。一方のバニャイアはレース序盤にクアルタラロと接触してカウル右側のエアロパーツが外れ、その影響でややペースを落としたが、しっかり9位でフィニッシュしてタイトルを獲得した。
圧倒的に速かったスズキとリンス
ただ、いずれにしてもクアルタラロが追い上げて優勝することはないと思わせるほど、リンスの走りが力強かった。
レース終盤、2番手を走っていたホルヘ・マルティンがやや後退。代わってブラッド・ビンダーが2番手に浮上してリンスとの差を少しずつ縮めたが、残り周回数を考えれば逆転はほぼあり得ない状況だった。
そのとき僕は、大会開幕前日のスズキの佐原伸一プロジェクトリーダーの言葉を思い出していた。
「いよいよ最後のレースになってしまったけれど、自分としては平常心。普段と変わらず、オートバイとライダーのポテンシャルを100%発揮できるようにしたい。とにかく、トラブルでレースを終えるということだけは絶対に避けたいですね」