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“りくりゅう”ペアはGP2大会優勝も、日本のペア代表枠「3」が“余っている”問題…シニアは実質1組だけ、日本人ペアが少なすぎる理由とは?
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2022/11/27 11:01
NHK杯でSP世界歴代5位の得点を叩き出し優勝した三浦璃来・木原龍一組。成長著しい2人だが、日本のシニアのペアは実質“りくりゅう”のみという危機的状況にある
全日本選手権を例にとってもペアの少なさが分かる。2016年に海外の男子と組んだ2組を含む4組が参加し2017年に3組が参加しているが、2000年以降を見渡すと多くの場合は1組、ときには参加するペアがいないため実施されないことも珍しくはなかった。2020年の全日本選手権で、カナダを拠点とする三浦・木原がコロナの影響を考慮して欠場となったため、ペアが実施されなかったのもその1つだ。シングルの選手層との差はここでも歴然としている。
「枠」の話で言えば、2021年世界選手権で三浦・木原が10位となっていたため、北京五輪の出場2枠目の権利を確保できていた。ただ、「もうひと組」が不在のため三浦・木原のみの出場にとどまった。
出場枠の意味は決して小さくない。例えば男子シングルは2006年トリノ五輪と世界選手権ではともに1枠しかなかったが、同年の世界選手権で織田信成が4位となったことで2007年の世界選手権は2枠に増加。そして2007年大会で高橋大輔が2位、織田が7位で3枠に増加。以来、そのときどきに出場した選手の懸命の滑りがあって「3枠」を維持してきた。今では当たり前のように3枠を毎年確保し、世界の舞台を経験する選手が増えた。そして増えた切符をめぐる国内の競争も激しくなり、レベルアップも図られた。だからせっかくの枠を活かせないことはもったいなくもある。
ペアの選手層が薄い3つの理由
なぜ、ペアでは選手層がここまで薄いのか。いくつかの理由があげられる。
1つには、体格のよい男子が限られていること。ペアの場合、女性を頭上に投げ上げて回転、それを受け止めるツイストリフトをはじめ、男子にパワーが求められるが日本では大柄な男子選手は少ない。そのため、日本の女子と海外の男子という組み合わせは少なくなかった。ちなみに木原は175cmともともと長身ではあるが、ペアに転向後、体重を増やすなどの努力があったことも見逃せない。
加えてよく指摘されるのは競技環境の問題だ。ペア(とアイスダンス)は2人で滑るため、リンクを広く使うことになるから、多くのスケーターがいる通常の営業時間に練習するのは難しい。かといって貸し切って練習するには費用が相応にかかる。シングルであれば、チーム単位で何人かで貸し切り練習をして費用を分散する手もあるが、ペアは数自体が少ないだけにそれも容易ではない。
また、これまでも競技人口が少なかったことは、経験者が少ない、つまり指導者も少ないことを意味する。専門的な指導を受けにくいこともあげられている。
こうした問題から、本格的に取り組もうとする場合には海外に練習拠点を置き、当地の指導を仰ぐ選手が多かった。そのため、ペアに取り組む選手はごく一部に限られ、国際大会で好成績をあげることも難しかった。