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競馬PRESSBACK NUMBER
周囲からは「どうせすぐ潰れるよ」…それでも「引退馬のための牧場」を成功させた異端児が明かす“日本人と馬”への違和感「動物園に馬がいない」
text by
伊藤秀倫Hidenori Ito
photograph byKiichi Matsumoto
posted2022/12/25 17:05
CMなどで一躍有名になったヴェルサイユリゾートファーム。代表の岩崎崇文さんに牧場立ち上げの経緯を聞いた
クラウドファンディングによる資金調達
さらに崇文さんが仕掛けたのが「クラウドファンディング」による資金調達である。周辺の関係者の当時の反応は「『クラウドファンディングって何?』という感じ」(崇文さん)だったというから、崇文さんの発想がこの世界で、いかに異例のものだったかがわかる。
最初のクラウドファンディング「-引退馬支援を考える- 馬も人も共生できる牧場をここから」は2019年6月、厩舎の建て替え資金として目標金額は1000万円に設定された。すると募集開始からわずか1週間で1000万円を突破し、最終的には956人から1370万円以上が集まったのである。なぜこれほど多くの人から賛同が集まったのか。崇文さんはこう語る。
「まだ競馬界ではクラウドファンディングをそれほどやっていない時だったので、物珍しさもあったと思いますが、ひとつ考えていたのは、あまり同情を引くようなやり方はやめよう、ということでした。動物系だとお涙頂戴的なアプローチもあるとは思うんですが、やっぱり今、何が起きているかをちゃんと皆さんに知ってもらうことに重点を置きました」
快進撃の陰で迫る「不穏な影」
クラウドファンディングのプロジェクト概要を伝える本文は、〈年間、約3,700頭。この数字がなんの数字かご存知ですか? この数字は輝かしい競走馬の舞台から引退した後、乗用馬への転用などもされることがなく『行方がわからなくなった』と言われている馬たちの数です〉と始まり、以下、引退馬がおかれている現実を、データをもとに説明し、そのために牧場をどうしたいのかをストレートに伝えている。
このクラウドファンディングの成功自体がひとつのニュースとして、ネット上でも大きな話題となり、ヴェルサイユリゾートファームの名が全国に知れ渡った。このクラウドファンディングの内容に興味を持ったのがYogiboの社長と副社長。2人が実際に牧場を見学に訪れ、崇文さんらの理念に共感し、後に“冠スポンサー”となる幸運へと繋がっていく。
「すべてはローズキングダムが繋いでくれた御縁だったと思います」
当初は冷ややかだった地元からも意外な反応があった。
「役場の方から感謝されましたね。これまでは観光客の方から『どこか馬が見れるところないですか?』と訊かれても、すぐに案内できる牧場がなかったけど、ウチが出来たことで、その悩みが解消されたということでした」
まさに「普通の人がふらっとやってきて、馬の魅力を身近に感じられる場所」という崇文さんの当初のコンセプト通りに、牧場が認知され始めたのである。
だが、快進撃を始めたヴェルサイユリゾートファームに「不穏な影」が迫っていた。
<#2に続く>
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。