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競馬PRESSBACK NUMBER
周囲からは「どうせすぐ潰れるよ」…それでも「引退馬のための牧場」を成功させた異端児が明かす“日本人と馬”への違和感「動物園に馬がいない」
text by
伊藤秀倫Hidenori Ito
photograph byKiichi Matsumoto
posted2022/12/25 17:05
CMなどで一躍有名になったヴェルサイユリゾートファーム。代表の岩崎崇文さんに牧場立ち上げの経緯を聞いた
乗馬クラブと牧場で異なる「馬との関係性」
こうして崇文さんは、美由紀さんと二人三脚で義父から引き継いだ牧場(2017年にヴェルサイユファームに改名)の立て直しを図ることになる(美由紀さんのインタビューはこちら)。義父の存命中も1、2度は遊びにきたことはあったというが、いざ牧場での仕事に関わるようになって、何よりも面食らったのは、同じ馬を扱いながら、乗馬クラブと牧場ではそのスタンスが大きく異なることだったという。
「やっぱり温度感が全然違うんですね。乗馬における馬は、やっぱり信頼関係を結んだパートナーで、ペットに近いような感じで愛情をかけて付き合います。それに対して牧場においては、馬を大事にしてはいるのですが、どこまでいっても『経済動物』という扱いで、ある種割り切ったところがあるんですね」
引退馬が余生を暮らせる牧場があってもいいんじゃないか
特に衝撃を受けたのは、年間6300頭ともいわれる引退馬たちの「行く末」だった。
「現役時にそれなりの成績を残せた馬は、種牡馬とか繁殖牝馬、あるいは乗馬用、観光用というセカンドキャリア、サードキャリアが用意されているけど、そうでない馬はどうなるのか、とスタッフに聞いたら『肥育業者が買って連れていって、そのままバイバイだね』と。要は食肉やペットフードになったりするという現実を知って、何とかならないのかな、と。引退馬が余生を暮らせる牧場があってもいいんじゃないか、と考えるようになりました」
引退馬の余生を考える取組みは、JRAや引退馬協会などを中心に各地でなされているものの、例えば海外と比較すると、まだまだその環境が整備されているとは言い難い。特に日本の競馬界にあっては、「馬は経済動物」という考え方が根強いという背景もある。
「もちろん牧場でも馬は大事にするんですけど、やっぱりドライというかビジネスライクですよね。お金を生み出すから大事なんであって、どこか故障したりしてそれが難しくなったら、すぐ『交換』という考え方の人もいる。現役の競走馬だったら人間が献身的に手当てするわけですが、牧場はそのあたりの見切りがすごく早い。実際に僕自身、牧場をやってみて、同じエサ代と人件費をかけるなら、お金を生み出す馬を優先するという理屈はよくわかるんです」
だが東京出身で、馬産地で生まれ育ったわけではない崇文さんだからこそ、気付いたこともあった。