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サッカーW杯史上初の“女性審判”に選ばれた日本人「選手が男か女か、それは私にとっては関係ない」山下良美(36歳)はどんな人生を?
text by
イワモトアキトAkito Iwamoto
photograph byAkito Iwamoto
posted2022/11/21 17:00
カタールW杯の審判団に日本からただ一人、選出された山下良美(36歳)。3人の女性主審が名を連ねるのはW杯の歴史を振り返っても史上初のこと
初めて主審として笛を吹いた男子高校生の試合。キックオフの笛を吹き、終了の笛を吹く。それだけで精一杯だった。判断の迷いから反則をいくつも見逃した。ベンチから「もっとやっていいぞ! いけいけ!」と声が飛ぶと、さらに危険なプレーが目立つようになり、試合は荒れた。
「やってる方も、見てる方も楽しくないですよ、荒れた試合なんて。初めて審判って大事な存在なんだと気づいた瞬間でした」
選手を輝かせる存在になりたい。その思いを胸に4、3、2級と審判員の階段を上っていった。女子1級の資格を得たことで、なでしこリーグの主審を担当するようになり、「審判という立場で日本の女子サッカーにもっと貢献できるんじゃないか」という思いを抱くようになった。
心に残る皇后杯決勝、女子W杯にも選出
今も心に残る試合がある。
2015年12月27日の皇后杯決勝、INAC神戸対アルビレックス新潟戦。2万人を超す観客で埋まった等々力競技場を見渡し、胸が高鳴った。この試合をもって引退する神戸の澤穂希の劇的な決勝ゴールにスタジアムが沸いた。
「決勝を任されて、その責任や重圧を感じましたが、それらを感じられる立場にいることは、とても光栄なことだと思いました。あの試合の笛を吹きながら、これだけ人を惹きつけられるんだ、と、日本の女子サッカーの力を感じました」
この年、JFAの推薦によりFIFAの国際審判員として登録された。19年には女子W杯フランス大会の審判団として、自身を審判の世界へと導いた坊薗とともに選出された。
女子W杯の笛を吹く——それは審判員として女子サッカー界のトップカテゴリーにいることを意味する。その先に何があるのか、想像したこともなかった。